<Everton toffee(Everton mint) エヴァートントフィー(エヴァートンミント)>
前回、トフィーの中では変わり種のシンダートフィーについてお話ししましたが、今日はもう少し伝統的なトフィーについてのお話し。
トフィーを一言で説明すると、お砂糖にバターやトリークル(糖蜜)を加えて煮詰めた飴のこと。時には、ゆるいソース状のトフィーソースを指すこともありますが、要はキャラメルっぽい感じのものよね、となんとなく味の想像はつくかと思います。でもなぜそれがトフィーという名前なのか不思議に思ったことはありませんか? 諸説あるのですが、toffee(トフィー)はtaffy、tuffy あるいはtoughy と綴られていた時代もあり、その飴の硬さ(toughness)に由来しているのではと言われています。また、18世紀後半のイングランド北西部では、トフィーづくりに使われていたトリークルをベースにしたラム酒のような飲み物を tafia と呼んでいたので、それを使った飴の事を taffy、toffee と呼ぶようになったという説も。
OED(Oxford English Dictionary)によると文献に残る最も古い記述は19世紀初頭のものだそうですが、このシンプルなスイーツはそれ以前から庶民の間で広く親しまれていたようです。中でも有名だったのは 「Everton toffee(エヴァートントフィー)」。Evertonとはリヴァプール郊外の小さな村の名前。そこに住むMolly Bushell さんという女性が、医師から教えてもらった喉薬の配合をもとに作ったトフィーが始まりと言われています。それを商品として売り出したのが1753年の事。その後村には何軒ものトフィー屋さんが軒を連ね、その人気はランカシャーを超え当時の女王様はじめロイヤルファミリーにも贔屓にされていたのだとか。 Eliza Acton女史の「Modern cookery for private families(1845)」にはエヴァートントフィーのレシピが二つ取り上げられています。そのレシピを見てみると~
真鍮の鍋に3オンスのバターを溶かし、1パウンドのブラウンシュガーを加え15分煮詰め、容器に流して固めましょう。削ったレモンの皮やジンジャーパウダーを加えても美味しいですよ~というもの。ミセスビートンのレシピでは白いお砂糖1パウンドと、バター1/4パウンド、それにレモンエッセンスが加えられています。
ところで、エヴァートントフィーと聞いて、振り向くのは甘いもの好きだけとは限りません。屈強なフットボールファンもエヴァートンのトフィーと聞けば興味を示すはず。 時は1878年、当時人気のトフィーショップ、Ye Ancient Everton Toffee House のすぐそばのスタジアム(Stanley Park)に 後のEverton FC(エヴァートンフットボールクラブ)、Domingo’s FCが設立されます。Old Ma Bushellさんの作るYe Ancient Everton Toffee Houseのトフィーはこのスタジアムに通うEverton FCファンに大変な人気を誇ります。その後、スタジアムがGoodison Park に移転してしまうことになると、今度はそのすぐそばにあった、Mother Noblett’s Toffee Shop にビジネスチャンスが到来します。とは言え、Everton Toffeeの名は すでに登録商標されていて使えません。そこで知恵を絞った挙句、当時Everton FCのユニフォームでもあった黒白の縞々ミントキャンディーでトフィーを包んだ、「Everton Mint(エヴァートンミント)」を作りだします。これが大ヒット。このトフィーはフットボールファンのみならず、地元の人々をも虜に。
さて、瞬く間に人気を奪われてしまった Old Ma Bushell さん、起死回生と考え出した手はスタジアムでのエヴァートントフィーの無料配布でした。トフィーガール、あるいはトフィーレディーとも呼ばれる女性がかごに入れたエヴァートントフィーを、ピッチから観客たちに配る許可を得たのです。それがEverton FC名物となり、いつしか、クラブのニックネームは「the Toffees」に。1世紀以上たった今でもトフィーズの試合の前には、トフィーガールによるトフィー(エヴァートンミント)のプレゼントがあるのだとか。
今でもよくスーパーやスイーツショップで見かけるエヴァートンミント、ただの縞々キャンディーだと思いきや、中にはトフィーだけではなくこんなお話しまで隠していたなんて、次回口にするときはちょっぴり味わいも違ってきそうな気がしますね。