第164話 Potato scone/ Boxty ポテトスコーン/ボクスティ

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イギリスおかし百科


<Potato scones / Boxty ポテトスコーン/ボクスティ>

「Potato scone(ポテトスコーン)」。さてこの名前から、どんな姿が頭に浮かびますか?じゃが芋とチーズがコロコロっと入ったようなセイボリースコーン?あるいはマッシュしたじゃが芋を生地に練り込んだタイプ?いずれにせよ、スコーンと名がついてしまうと、つい、いつものクロテッドクリームとジャムをのせて食べる、あのふっくら膨らんだ厚みのある姿を想像してしまいますが、イギリスで「ポテトスコーン」という名で登場するのは3角形(扇形)の平べったい、焦げ目の付いた、まるで具なしのチヂミのような物体。これがスコーン?思わずそう問いたくなる姿のものです。

「Scottish potato sconesスコティッシュポテトスコーン」、 「Tattie sconesタティースコーン」(tattie =スコットランドでじゃが芋のこと)とも呼ばれるように、本来はスコットランドの名物ですが、今は他の地方のスーパーでも見つけることが出来ます。またほぼ同じものがイングランド北西部に位置するランカシャーで、「Lanchashire potato cake(ランカシャーポテトケーキ)」として親しまれています。

グリドルの上でこんがり焼かれた平べったいポテトスコーン☆

マッシュポテトに少量の小麦粉(レシピによりベーキングパウダーも)を加えて練り、薄く伸ばしてグリドル(またはフライパン)で焼くだけなので、お味のほうは実に素朴、焼き立てにバターを塗っていただくと、もちっとした食感も相まって、ほっとする美味しさ。おやつに食べてもいいし、スコットランドでは、よく朝食のプレートに目玉焼きやベーコンなどと一緒に添えられてきます。オールドファッションなイングリッシュブレックファストをいただくと、たまにのっているフライドブレッド(揚げ食パン)より、正直ずっと美味しい(失礼)!

それにしてもこのシンプルさ、おそらくじゃが芋がイギリスに入り庶民の食卓に上るようになったその頃(意外と遅くて17世紀)から作られてきたであろうことは想像に難くありません。前の晩の残り物のじゃが芋を潰し、粉を足して翌朝グリドル(直火用鉄板)で焼いていた様子が目に浮かびますね。粉を加えてひとかたまりにした生地をグリドルに入るサイズの円形に伸ばし、ひっくり返しやすいよう4等分の扇形にカットしてからグリドルで両面こんがり焼く、、、四角形でもなく、小さな丸でもなく、大きな丸を十字にカットするのが定番です。

やはりじゃが芋を古くから主食としてきたアイルランドでも同じようなものが作られてきたのですが、こちらは「Potato farl(ポテトファール)」と呼ばれます。アイルランドでは生地を平たく扇形にカットしてから鉄板で焼くソーダブレッドのことを farl(ファール)と言うので、そこにマッシュポテトが入るから「ポテトファール」。farl という語はもともとゲール語で4分割を意味する‘fardel’に由来しているそうなので、いつもこの形なのも納得です。

ところでアイルランドのじゃが芋を使った粉ものということで、もうひとつご紹介しておきたいのが、「Boxty(ボクスティ)」。こちらは生の削ったじゃが芋をメインとし、そこにマッシュポテトと小麦粉とベーキングパウダー(または重曹)、バターミルクを加えて生地を作り、フライパンで焼いたパンケーキ状のもの。

アイルランドのBoxtyには シュレッド状の生のじゃが芋とマッシュポテト両方を使います☆

パンケーキタイプの一番基本のボクスティ☆

シュレッド状のじゃが芋の食感とマッシュポテトとの両方が合わさった味わいはスイスのロスティとイギリスのポテトスコーンの中間のよう。基本はこのグリドルやフライパンでパンケーキ状に焼くタイプなのですが、ボクスティと呼ばれるものの中にも、いくつか別のタイプがあります。
まずはボイルドタイプ。これは、幾分固めに作った生地を、大きなダンプリングのように塊のまま熱湯で茹で上げ、それをスライスしてフライパンで両面ソテーして食べるというもの。もっちり感が際立ちます。ベイクドタイプのローフボクスティは生地をローフ型に入れてパンのようにオーブンで焼きます。ソーダブレッドのように丸くまとめてオーブンで焼くボクスティブレッドなるものも。

ベイクドタイプのボクスティブレッド☆

イギリス以上に主食をじゃが芋に頼ってきたアイルランド、じゃが芋しかほぼ食べるものがないという時代もあったのですから、じゃが芋をいかに工夫して毎食毎日飽きずに食べるか、ボクスティひとつにもその努力がうかがい知れます。アイルランドの中でもとくに北部と北西部で広く食べられてきたボクスティ。今も北アイルランドのUlster fry(アルスターフライ)と呼ばれるボリュームたっぷりの北アイルランド式フルブレックファストには欠かせない存在です。

「美味しいボクスティが作れないとお嫁にいけないよ~」そんな童謡があるくらいにアイルランド人の生活に結び付いてきたボクスティ。昔はハロウィーンで食べる習慣があったといいますから、ちょうど今頃アイルランドではボクスティを作っている人が多いかもしれませんね。

Boxty on the griddle,
Boxty in the pan,
If you can’t make boxty,
You’ll never get a man

 

 

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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