第173話 Bury simnel cake ~べリーシムネルケーキ~

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<Bury simnel cake ベリーシムネルケーキ>

朝晩の寒さが弱まり、日差しに春が感じられるようになると、そろそろイギリスの母の日がやってきます。5月の第2日曜日と決められている、アメリカや日本の母の日と違い、イースターの3週間前の日曜日と決められているイギリスの母の日は毎年大きく日にちが変ります。イースターは、春分の日のすぐ後の満月の次の日曜日~という事は、今年のイギリスの母の日Mothering Sundayは3月22日(日)、間もなくですね。このマザーズデイではなく、マザリングサンデーという単語が示す、本来の意味は以前にもご紹介したことがあるので、こちらをお読みいただくとして~

そのマザリングサンデーに食べるケーキ「シムネルケーキ」が本日のお題。今回は、以前の「シムネルケーキ」の章で軽く名前だけ言及した「Bury simnel cake(ベリーシムネルケーキ)」についてです。マンチェスターから北12㎞程のところにあるBuryという町発祥のこのシムネルケーキは、今もよく目にするあのシムネルケーキ、黄色のマジパンのボールが11個のったあの可愛らしいシムネルケーキとは全くの別物。 それはドライフルーツとスパイスのたっぷり入った巨大なスコーンのような姿のものでした。19世紀にはベリーの町起こしを兼ねてモンスターサイズのベリーシムネルケーキが焼かれていたとか。その大きさたるや、驚くなかれ、1863年にヴィクトリア女王に献上されたものは70パウンド(約30kg)、1845年のロンドンのコベントガーデンシアターで行われたNational Free Trade Bazaar に展示されたものにおいては170パウンド(約75kg)もあったというのだからビックリです。

そんな特別に大きなものはさておき、その当時、ベリーの町のベイカリーで焼かれていたという一般的なシムネルケーキのレシピを見てみましょうか。

材料は以下のとおり
小麦粉2½lb、バター½lb、ラード½lb、膨張剤1oz、お砂糖1½lb、アーモンド¾lb、ビターアーモンド少々、カランツ4lb、ナツメグ½oz、シナモン½oz、レモンピール½lb、卵5個、牛乳少々。
(lb=約450g oz=約28g)
作り方はスコーンと一緒でシンプル。
粉類に油脂を入れてサラサラのパン粉状にし、卵と牛乳でまとめるだけ。これを、直径45㎝、厚さ7㎝程の円形にまとめてオーブンで1時間半から2時間ほど焼きましょう~となっています。

さぁイメージしてみましょう。直径45㎝(焼いたらさらに大きくなります)、総重量5kg近くのスコーンのような物体。これでもなかなかの大きさですね。一升餅2~3個分?持ち上げるのも一苦労です。重みでお皿も割れてしまいそうですね(笑)

残念ながら、今ではほぼ姿を消してしまったこのベリーシムネルケーキですが、今でも食べられるところがあります。それが、ヨークシャーに6店舗を構えるティールーム兼ベイカリーBettys。考えてみればベリーの街からBettysの本店があるハロゲイトまでは車で1時間半くらい。あってもおかしくはありません。ただし、いつでもというわけではなく、ベリーシムネルケーキが登場するのはイースター近くの、ホットクロスバンズやチョコレートエッグが店頭に並ぶ時期のみ。その頃になると、いつものファットラスカルに加え、このベリーシムネルケーキをファットラスカルサイズに仕立てた「Bettys Bury simnel」が並びます。お味のほうはそこはBettys、間違いのない美味しさ。食感はファットラスカルそっくりですが、ドライフルーツ多めで、スパイスがより効いています。なるほどこれは、ファットラスカルの兄弟分といった味わい。

Bettys バージョンのベリーシムネル☆

なので、これまではBettys 風のアレンジがかなり加えられているのだろうと思っていたのですが、、、実際にオリジナルと言われている先ほどのレシピで焼いてみたら、なんとBettysで売られているあのベリーシムネルとそっくりではないですか。さすがに今回は45㎝サイズは迫力があり過ぎるので、その1/5サイズで作成、それでもべティーズのものの6倍くらいはゆうにありましたけれど。

この1/5サイズでも焼き上がりは直径約20㎝。マザリングサンデーに教会から帰った後、家族で食べるには充分なサイズです。見た目は多少地味ですが、ドライフルーツにスパイスにアーモンドと、当時にしたら贅沢な材料がたっぷり。遠く離れて奉公に出ていた子供たちも加わり、家族で食べるシムネルケーキ。46日に渡るレントの節食期間中の最高のご褒美であったことは想像に難くありません。

このコロナ騒動終息後の私たちのご褒美は何かしら??

 

 

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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