第179話 Eliza Acton’s Christmas pudding ~イライザ・アクトンのクリスマスプディング~

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<Eliza Acton’s Christmas pudding イライザ・アクトンのクリスマスプディング>

ヴィクトリア時代を代表するクッカリーライターEliza Acton(1799-1859)。
1799年Sussexに生まれ、大人になってからはSuffolkでボーディングスクールを設立したり、フランスに渡り詩の創作に励み、詩人としてデビューしたりと、料理の世界とはまた違った半生を過ごすのですが、35歳を過ぎた頃(と言われています)からフードライターの世界へ足を踏み入れます。何かと取りあげられるBeeton夫人の陰に隠れて、その名を耳にする機会は少ないものの、彼女が長い時間かけて纏め上げた「Modern Cookery for Private Families(1845)」はヴィクトリア時代の食文化を知る上で素晴らしいレシピ本のひとつ。


スープに始まり、魚に貝類、ソースに肉類、野菜料理に保存食まで、そのレシピの多彩さはもちろん、素材の選び方に保存の仕方、調理上の注意点、道具の使い方に至るまで事細かに記されています。それまではレシピ本と言えばプロの料理人のためのものが主流、分量も多く、大まかな説明のものがほとんどだったなか、彼女は対象を中流階級の一般の主婦層に定め、知識や経験がなくとも作れるよう、丁寧に作り方を記しました。
しかも特筆すべきは作り方とは別に独立して材料の分量表記がされている点(時には調理時間も)。これは今では当たり前のようですが、このレシピ本以前は、作り方の文章の中にグラム数(当時はオンスやパウンド数)が記載されているだけで、別枠に材料が記載されることはなかったのです。
また「Modern Cookery for Private Families(1845)」はブラッセルスプラウト(芽キャベツ)の料理やスパゲッティという語をイギリスのレシピ本として初めて取り上げたと言われています。そして、それまでイギリスで「プラムプディング」と呼ばれていたものを「クリスマスマスプディング」と紹介したのもこの書においてが初めてとも言われています。

 

 

「ボイルドプディング」の章にはお肉を使ったセイボリーものから、デザート用の甘いものまでいくつものプディングが載っていますが、その中で、クリスマスプディングと名付けられているものは二つ。「INGOLDSBY CHRISTMAS PUDDING」と 「THE AUTHOR’S CHRISTAMAS PUDDING」。前者は1lb(約450g)ずつのパン粉と小麦粉、2lbずつのレーズンとカランツとスエット、卵16個にグラス4杯のブランデーやらを混ぜ合わせて6時間茹でなさいというもの。
そして、今日ご紹介したいのは後者の「THE AUTHOR’S CHRISTAMAS PUDDING」と名付けられたもの。この本の中には、他にもいくつか Author’s recipe(著者のレシピ)と記されたものがあります。それらは大抵手に入れやすい材料で作れて美味しい、作者もお気に入りのレシピ。このクリスマスプディングのレシピの後に続くアクトンさんのコメントは「軽くて小さくて、リッチなプディング、とてもおすすめです。ジャーマンソースかワインソース、パンチソースを添えるといいでしょう」というもの。
彼女のレシピのファンのわたし、これはもう絶対美味しいに違いないと腕まくり(笑)

 

THE AUTHOR’S CHRISTAMAS PUDDING

To three ounces of flour, and the same weight of fine, lightly-grated bread-crumbs, add six of beef kidney-suet, chopped small, six of raisins weighed after they are stoned, six of well-cleaned currants, four ounces of minced apples, five of sugar, two of candied orange-rind, half a teaspoonful of nutmeg mixed with pounded mace, a very little salt, a small glass of brandy, and three whole eggs. Mix and beat these ingredients well together, tie them tightly in a thickly-floured cloth, and boil them for three hours and a half.

さて、アクトンさんの言うとおり、こちらは前者のクリスマスプディングと比べて分量も少なめで、茹で時間も3時間半。材料を混ぜ合わせたら、プディングクロスで包んで茹でるだけなので、下ごしらえはあっという間です。

当時のように、まずはスエット(牛の腎臓周りの脂)を小さく刻んで~とか、レーズンやカランツは粉をふってバラバラにほぐしてから種やへたを取り除いて、洗って乾かして~なんて作業もなし。全部スーパーから買ってきて、デジタルばかりで計量してボールに入れてぐるぐる混ぜるだけなのですから。すべて材料を混ぜ合わせたら、堅く絞ったクロスに粉をたっぷりはたき、そこに生地を流し入れて縛ります。それを沸騰したお湯の中に入れて茹でること3時間半。包みを開くと~顔を出すのはホカホカ湯気をあげるまあるいプディング。このまるで巨大お饅頭のようなクリスマスプディングがクリスマスのディナーのフィナーレに登場したら、宴は大いに盛り上がったことでしょう。

 

 

今回アクトンさんお勧めの三種の中から選んだソースは「A DELICIOUS GERMAN PUDDING-SAUCE」。もう聞くだけで美味しそうな名前です、、そして実際にこれが想像以上に美味しくて嬉しい驚き!シェリー酒にお砂糖を加えて軽く温め、それを卵黄に加え混ぜたら、湯煎にかけながら泡立てる、言ってみればサヴァイヨンソースのようなもの。しかも卵黄6個に対して、しっかり甘みをつけたシェリー酒280mlとたっぷりで、ふわふわのソースに仕上がります。これを温かいうちに、湯気の上がるホカホカプディングにかけて頂くのだから美味しくないはずがない。
そうそう、肝心のプディングのお味もアクトンさんおススメのとおり、ボイルドプディングとは思えないほど食べやすい食感と、軽い甘み、ちょうどいいフルーツと生地のバランスで、これまで食べたボイルドプディングの中では間違いなく一番の美味しさでした。

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今年は世界中の人々にとって会いたい人とも自由に会えない、制限の多い難しい1年でしたが、それでも変わらずクリスマスはやってきます。そして明るい夜明けも。
Happy Christmas !
平和で穏やかな、みんなで笑って抱き合える2021年になるよう願いを込めて。。。

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About Author

yasuda mariko

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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