第184話 Arctic roll ~アークティックロール~

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<Arctic roll アークティックロール  >

 

「あなたがノスタルジーを感じるおやつは何ですか?」

年齢、国籍、性別などにより様々な答えが返ってくると思いますが、イギリスで50代以上の人にこう尋ねたら、「アークティックロール」と答える人も中にはいるでしょう。
アークティックロールを日本語にすると「北極のロール(ケーキ)」つまり、冷たいロールケーキ。これはBird’s Eye という冷凍食品メーカー(フィッシュフィンガーで有名)が発売しているアイスクリームロールケーキのこと。
ラズベリージャム(ソース)が塗られた薄いスポンジでバニラアイスクリームが巻かれています。いわゆるロールケーキのように渦巻き状ではなく、スポンジが筒状のアイスクリームの周囲を覆っているスタイル。冷凍庫から出して、ナイフでスライスしていただきます。冷凍庫に常備しておけば、いつでもすぐに食べられるので、子供たちの手軽なおやつにしてもよし、生のベリーやソースを添えればデザートにもなる便利なアイスクリーム。

 

手作りアークティックロール

私たちからすれば、冷凍食品ですし、それほど古臭い感じはしないのですが、実はこのアークティックロールが一世を風靡したのは1970年代、80年代のこと。その後人気が後退しスーパーの冷凍コーナーから姿を消してしまいます。今売っているのは、それが2008年にリヴァイバルしたもの。確かに、よく見るとアークティックロールのパッケージにはIt’s back! の文字が。
新しいアークティックロールはラズベリーソースが渦巻状に入ってちょっとだけおしゃれになっていますが、そのお安さは健在。スーパーでは1本1ポンドちょっと。6人分くらいのデザートがこのお値段で買えるのですから、他にはないコストパフォーマンスの良さ。
実はこれがこのアークティックロール再起のカギ。

Bird’s Eye HP より

2008年と言えば世界金融危機により、イギリスも不景気の真っただ中。そこでこのローコストデザートの復活と相成ったのだとか。お安さと懐かしさとで、その時は随分と売れ行きが良かったようです。大手スーパーにはほぼ同じ姿をしたオウンブランドの「アイスクリームロール」と名付けられたものも並び、こちらに至っては1ポンドを切るお安さ。
お味のほどは~おそらくご想像どおり。さして期待して食べるお値段でもないので、別段がっかりするほどでもないと思うのですが、有名なフードライターのナイジェル・スレイター氏は「凍ったカーペットみたいだ」なんて辛口コメント(笑)。

さて、このアークティックロール、実はBird’s Eyeが生みの親ではありません。考案者は1939年にチェコスロバキアからの移民してきたErnest Veldenという弁護士さん。世の中に冷凍庫が普及し、イギリスで冷凍食品ブームが起きていたの見て、スポンジで包んだアイスクリームデザートは間違いなく売れると踏んだ彼はイーストボーンにアークティックロールの工場を建設したのでした。狙い通りにアークティックロールは軌道に乗り、1959年には Bird’s Eyeがその製造を引き継ぎます。1980年代前半にはなんと1か月で長さにして25マイル分も製造していたというのだから驚きです(1マイル=約1.6km)。

そんなノリにのっていたアークティックロールの前に現れたのが、皆さんもご存知「ヴィエネッタ」。そう、ミルフィーユのように薄いアイスクリームの層が折り重なりケーキのようになった、あれです。
ヴィエネッタがグロスターの Wall’s(Unilever社)のファクトリーで最初に作られたのは1982年の事。発売当初はクリスマス限定商品でしたが、あまりの人気ぶりに、1984年からは通年商品に。素朴なアークティックロールは、なんとなくお洒落に聞こえる外国風の名前と繊細な作りのヴィエネッタに、アイスクリームデザートの王座を明け渡すこととなったのでした。
そう言えば幼少の頃、スーパーでヴィエネッタを買ってもらえると、なんだかご褒美おやつのようで嬉しかったのを私も思い出しました(笑)。そして今はイギリスで売っているチョコミント味のヴィエネッタが懐かしい。そういう意味では私にとってヴィエネッタは二重のノスタルジーを感じるデザート。

ベイクドアラスカ

おまけにもうひとつ、レトロアイスクリームデザートのくくりで忘れていけないのが「Baked Alaska(ベイクドアラスカ)」。薄いスポンジの上にのったドーム状のアイスクリームをメレンゲで覆い、軽く焼き目をつけたデザートです。
こちらはアメリカ生まれのデザートですが、やはり1980年代のイギリスで、パーティーやちょっと特別なディナーのフィナーレを飾るデザートとして人気を博します。焦げ目の付いたメレンゲの中から冷たいアイスクリームが出てくるというサプライズが大いに受けたよう。これもまたしばし姿を消した後は、ノスタルジーを感じさせつつちょっぴりお洒落にお一人様用デザートに仕立てたものなどをまた見かけるようになりました。

 

今日はイギリスのノスタルジックなアイスクリームデザートのお話しでした。
さぁ、私は早速ヴィエネッタを買いにスーパーマーケットに行ってきます!
貴方の郷愁を感じるおやつは何ですか?

 

 

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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