第185話 Wakes cakes ~ウェイクスケーキ~

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イギリスおかし百科


<Wakes cakes ウェイクス ケーキ>

 

今日ご紹介するのは「ウェイクスケーキ」。これもまた、今はほぼ消えてしまったお菓子シリーズになりますが、ダービーシャーやランカシャーなどのイングランド中部から、ヨークシャーなどの北部にかけてよく作られていたお菓子です。
ケーキと名はつきますが、ビスケットの一種。昔は村ごとにレシピがあったと言われ、様々なパターンがありますが、基本はバターたっぷりで、卵を加えて生地をまとめるリッチなもの。そこにキャラウェイシードが入るもの、カランツやレモン、あるいはアーモンドパウダーやスパイスが入るものなどあります。大きさは6㎝程度のものが基本ですが、中にはWinster Wakes cake(ウィンスターウェイクスケーキ) のように直径12~15㎝のソーサーサイズのものも。

 

キャラウェイシード入りやカランツ入り、サイズもさまざま☆

ピークディストリクトにあるウィンスターでは今も毎年夏にウインスターウェイクスというお祭りが開かれており、こんな歌が残っています。

Winster Wakes there’s ale and cakes
Allton Wakes there’s trenchers
Birchouer Wakes there’s knives and forks
Sheldon Wakes there’s wenches.

「ウインスターウェイクスにはビールとケーキ~」ということはビールと一緒に楽しむビスケットだったのかも? 風味は様々なタイプがありますが、いずれさっくりほろりと砕けるショートブレッドのような美味しいビスケット、紅茶はもちろん、ビールにも合わなくはありません。

ところで、ウインスターウェイクスの Wakesとはここでは村や町で開かれる賑やかなフェア(お祭り)を指しているのですが、もとは各地域の教会や教区のそれぞれの守護聖人の祝祭日のことで、その日は前夜から信者たちは教会で寝ずに(wake)祈りをささげ儀式に参加したため、その名がついたと言われています。次第にその祭日にダンスやゲーム、祝宴などの催しが伴うようになり、その地域のフェアへと発展していきます。さらにウェウィンスターウェイクス見世物に食べ物の屋台やファンフェア(移動遊園地)などを含む、数日間続く飲めや歌えの賑やかなお祭りへと変化していき、そのお祭りでこのウェイクスケーキは売られていたのだとか。

ところで産業革命中の18、19世紀にかけ、ウェイクスケーキのレシピが残るイギリス中部、北部辺りでは、ウェイクスという言葉が次第に夏の短期休暇(労働者の夏休み期間)を意味するようになります。
多くの織物工場や炭坑、その他の産業に従事する労働者たちは地域ごと、あるいはその工場や炭坑、産業ごとのwakes week (ウェイクスウィーク)が定められ、みなが一斉に休みをとり、休暇旅行に繰り出しました。

労働者に人気だったのがブラックプールやモーカム、スカバラなどの海辺の観光地。毎シーズン何万という家族連れの観光客が鉄道やキャラバンで海沿いのリゾート地に押し寄せました。大抵は余裕がないので安いゲストハウスに宿泊し、滞在先での食費を切り詰めるため、彼らはパンやらケーキやら沢山の食糧を鞄に詰め込んでいくのが常だったようです。その中に入っていたのもウェイクスケーキ。日持ちし、持ち運びも便利なビスケットはホリデー先でのおやつに確かにうってつけだったことでしょう。

レモンの皮やアーモンドが入ったものも☆

最も多くみられる基本のレシピはこんな感じ。
① 薄力粉225gにバター150gを加えて、指先でサラサラのパン粉状にし、そこにグラニュー糖112gを加えます。
②カランツ、またはキャラウェイシードを好みの量加え、卵一つを溶いたものを加えて生地をまとめます。
③厚さ5㎜くらいに伸ばして6㎝位の丸型でカットし、170℃に予熱したオーブンで軽く色がつく程度に15分程焼いたら、グラニュー糖をふりかけ冷まして完成。

とても手軽に作れるので午後のお茶のお供に是非お試しを♪
イギリスを訪れることが出来るのはもう少し先になりそうですから、せめてティータイムくらいはイギリス気分を味わいたいもの。
今日はウェイクスケーキでイングランド北西部の旅へ。。。


 

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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