第187話 Banana custard /Rhubarb and custard ~バナナカスタード/ ルバーブ&カスタード~

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イギリスおかし百科


<Banana custard /Rhubarb and custard  バナナカスタード/ ルバーブ&カスタード>

あまりにもシンプル過ぎて、取り上げるのを忘れていたおやつがありました。

イギリスのノスタルジックデザートの大定番「バナナカスタード」。これほど名が全てを表しているデザートがあるかしら?と思うほど、隠し味も何もなくド直球。
輪切りにしたバナナに温かいカスタードをかける、出来上がり!
それも多くのイギリス人が頭に思い浮かべるのは、バニラビーンズの入った滑らかなカスタードクリームではなく、インスタントのカスタードパウダーで作るもったりとした、時にはダマのある黄色い池に浮かぶバナナの輪切り。

 

バナナ+カスタード=出来上がり!

 

これは1960~80年代にかけて幼少期を過ごした世代にとっては懐かしい思い出の味。日々のおやつに、スクールディナーのプディング(給食のデザート)に頻繁に登場していたメニューです。

カスタードパウダーが発明されたのは1837年、イギリスで初めてバナナが店頭に並んだのが1633年、そしてそれが庶民にも手の届く値段になったのは19世紀のこと。よって、20世紀初頭にはすでにバナナカスタードは存在していたのですが、第一次世界大戦の食糧配給制度の時代や、1940年から1954年まで14年も続いた第二次世界大戦による長い食料配給制度の下ではバナナは夢のフルーツ、、、
戦前バナナを口にしていた親が我が子に「バナナというとっても甘くて美味しいフルーツがあるんだよ」と教え、バナナを食べることを夢見ていた子供たち。戦後、バナナが市中に再び出回わり始めた時にはそれはそれは大騒ぎだったとか。多くの人にいきわたらせたいと、八百屋さんはひと家族に一本ずつバナナを売ったため、生まれて初めてのバナナを口にする子供たちはほんの一切れずつ配られたバナナを大切に味わった~なんて話や、茹でたパースニップに砂糖とバナナエッセンス(手に入れば)を加えてマッシュしたものをパンに挟んだモックバナナサンドイッチ(なんちゃってバナナサンドイッチ)のレシピなどを目にすると、当時の人々のバナナへの渇望が感じられます。。

インスタントのカスタードミックスはイギリス人のステイプル!

ちなみに、現在のイギリスのバナナ消費量は一人当たり年間約100本。これは今でもかなりのバナナ好き。
イギリスの有名フードライターNigel Slate氏もこのバナナカスタードには思い入れがあるよう。彼のレシピはさすがにインスタントではなく手作りカスタードですが、他にもこだわりポイントがいくつか。
器は温めておくこと。バナナは斑点が出る程度に熟れたものを、1ポンドコイン程度の厚みの輪切りにすること。熱々のカスタードの上にバナナを加えたら、5分置いて味をなじませてから食べる事。なるほど、、、

バナナと温かいカスタードのコンビネーション、日本ではまずお目にかからない組み合わせですが、これはこれで悪くないもの。インスタントカスタードならノスタルジックな味に、手作りのカスタードなら立派な(?)デザートになります。わたしは器にバナナを入れたら、ちょっぴりデメララシュガー(目の粗い褐色のお砂糖)とブランデーかラム酒をふりかけてから、温かいカスタードをかけるのがお気に入り。是非一度お試しを。

元気に育った露地もののルバーブ

そしてもうひとつ、バナナカスタードのルバーブ版「ルバーブ&カスタード」も忘れてはいけないイギリスのノスタルジックプディング(デザート)のひとつ。こちらは加熱して柔らかくしたルバーブに温かいカスタードをかけただけの、やはり究極のシンプルデザート。お店で買うしかないバナナと違い、家庭菜園でもよく栽培されてきたルバーブにカスタードをかけたものは、バナナバージョンより頻繁に食卓に登場したようですが、その酸味の強さもあって、子供たちの好みは別れたよう。確かにバナナのほうが万人受けする味かもしれません。

お好みですが、ルバーブバージョンは冷やしたほうが個人的にはお勧め。器の底にスポンジを敷いて、ルバーブとカスタードをのせて冷やすとおいしいですよ、ってもうそれじゃあトライフルよって言われそうですが(^^;)。

ルバーブ&カスタード

 

目下イギリスはレトロプディングブームの真っただ中、昔ながらのスタイルのルバーブ&カスタードまでは目にしないものの、タルトやケーキ、ミルフィーユまでそのアレンジバージョンは大分見かけるようになりました。が、それでも「ルバーブ&カスタード」の名を一番目にするのは、実はスイーツショップ(駄菓子屋さん)かもしれません。それは鮮やかな黄色とピンクの誰もが知る定番のキャンディー。もとになっている「ルバーブ&カスタード」は食べたことがなくともこのキャンディーなら今の子供たちもきっと食べたことがあるでしょう。スーパーのお菓子コーナーでもよく売られているので、機会があれば探してみてくださいね。

ルバーブ&カスタードはキャンディーの定番フレーバー☆

子供の頃、いちごにお砂糖と牛乳をかけてつぶしたものや、風邪ぎみの時にはお砂糖を加えて透明になるまでよく練ったくず湯をおやつに食べたりしましたが、ある世代以上のイギリス人にとって、バナナカスタードやルバーブ&カスタードはきっとそれらに通じる懐かしさに溢れた味。どんなテーブルで、誰と一緒に食べたのか、どんな楽しい一日だったのか、遠い記憶がフラッシュバックするノスタルジックなデザートなのでしょう。

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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