第196話 Duke of Cambridge pudding/Prince Albert’s pudding~デュークオブケンブリッジプディング/プリンスアルバートプディング~

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<Duke of Cambridge pudding/Prince Albert’s pudding デュークオブケンブリッジプディング/プリンスアルバートプディング>

今年はエリザベス女王のプラチナジュビリーイヤー。6月の華やかな式典の後も、日本でも何かと英国王室関係の話題を目にするようになった気がします。折角なので、前回に引き続き今月も王室にゆかりのある美味しいプディングをご紹介☆

まずは「デュークオブケンブリッジプディング」。
Duke of Cambridge(ケンブリッジ公爵)とはイギリスの年少の王族に対して授与される爵位の一つ。現在はエリザベス女王の孫ウィリアム王子のことを指しているのは皆さんもご存じのとおりですが、このプディングはケンブリッジ公はケンブリッジ公でも、大分昔のケンブリッジ公爵、ジョージ3世の七男、アドルファス(1774-1850)にちなんで名づけられたと言われています。

古いお菓子なので、プディングと名はついていますが、スタイルは今で言うタルトの一種。そのため後年は「デュークオブケンブリッジタルト」と呼ばれることが多くなりました。ペストリーの中にはバターとお砂糖、卵黄で出来た滑らかでリッチなフィリング。そこに、基本はミックスピール(オレンジとレモンの皮の砂糖漬け)がたっぷり入っています。

 

作り手によって、ドレンチェリーやアンゼリカ、サルタナが入るもの、ラムやブランデーで香りづけするものなど色々バリエーションがありますが、基本形と思われるレシピが紹介されているのが、Laura Valentineによる‛The young woman’s book; a useful manual for everyday life(1877)’ 。簡単にご説明するとこんな感じ。

パイ生地を敷いた型にレモンとオレンジとシトラスのピール各1オンス(約28g)をのせておきます。バターとお砂糖各6オンスを温めて溶かし、卵黄4個分を混ぜて煮たてます。これを先ほどのピールの上に流し、弱めのオーブンで45分程焼いて完成。

お馴染みの材料だけながら、これまでにない食感におもわず、一口食べて「ほう~」。。。バターとお砂糖たっぷりのしっかり甘いフィリングに柑橘の香りと食感。今なら、甘みを加えない生クリームをたらしてプディングとして、あるいは小さくカットして、ウィスキーのお供に少しずついただくのも良さそうです。

それにしてもこの甘さに配合、当時としてはかなりリッチなお菓子だったことでしょう。そして、ケンブリッジ公は相当な甘党だったに違いありません。現在のケンブリッジ公、ウィリアム王子も甘党のようですから、後に彼の名を冠したプディングも出来るかもしれませんね。例えば結婚式の時にグルームズケーキとしてふるまわれた、チョコレートとビスケットを固めたフリッジケーキ、これが後々そう呼ばれるようになっても不思議はないかも。

さて、もう一つ今日ご紹介したいのが、「Prince Albert’s pudding (プリンスアルバートプディング)」なるお菓子。
プリンスアルバートとはヴィクトリア女王の夫アルバート・オブ・サクス=コバーグ=ゴータ公子(1819-1861)のこと。もともと質素倹約を好み、食もシンプルなものを好んだアルバート公、胃腸が弱いこともあり、普段の食事にはいつも消化の良い食べ物が用意されていたそう。このプディングは、そんなアルバート公がいかにも好みそうな、飾り気のないシンプルなプディング。一般の家庭でもふつうに登場しそうなこのスチームプディングに、お酒を利かせたソースがちょっぴり華やぎを添えています。

 

このプディングのレシピはヴィクトリア時代の有名な料理書、イライザ・アクトンの ’Modern Cookery for Private Families(1845)’にも載っています。それは同量のバターとお砂糖、小麦粉とレーズン、そして卵で作った生地をゆっくり蒸し煮にする、いわゆるスチームスポンジプディング。シンプルに美味しいので、試しに作ってみたいという方のために、簡単にレシピを。。。

半パウンド(225g)のバターに同量のお砂糖を加えて攪拌します。卵黄5個を加え、続いて泡立てた卵白5個分も加えます。ふるった小麦粉半パウンド分を加え、最後にレーズン半パウンド分を加えて生地は完成。これをバターをたっぷり塗った型に入れるか、粉をはたいた布に包んで3時間茹でます。
ゆであがったらパンチソースを添えてサーブします。
メースやレモンの皮のすりおろしを加えるのもおすすめです。また、型を使うのであれば、底にレモンピールを敷いておくのも良いでしょう。

~というのが、アクトンさんのレシピです。
ちなみにパンチソースとは、当時よくプディングに添えられた甘いお酒入りのソースのこと。軽く温めて供されます。

色々なレシピがありますが、彼女のレシピは、¼パイント(1パイント=568ml)のお水に2オンスのお砂糖、レモン、オレンジの皮のそぎ切り各少々を火にかけて、15~20分程加熱したら皮を取り出し、そこにバター1½オンスと小麦粉小さじ1を混ぜたものを加えて濃度をつけ、ブランデーと白ワイン各½ワイングラス、グラス⅔杯分のラム酒、オレンジ果汁½個分、レモン果汁少々を加えて軽く温めて完成。
かなりお酒たっぷり、大人のソースですね。これならシンプルなプディングでも、満足感がUPすること間違いなし。

蒸したてのレーズン入りのプディングに、たっぷりのパンチソース、胃も心もほっとする美味しさです。家庭的な生活を好んだエリザベス女王とアルバート公、ふたりが美味しそうに出来立てのプディングを口に運ぶ様子が目に浮かぶようです。

ちなみに、上記のアクトンさんレシピだとかなり大きなプディングになるので、日本のデザート向きには半量で作ってもいいかもしれません。その場合は茹で時間は2時間でOK。そして、小麦粉にベーキングパウダー小さじ半分入れてあげると、よりソフトな食べやすいプディングになりますよ。

実際にはこの他にも、プリンスアルバートプディングと名付けられたプディングはいくつか存在したようで、プルーンを使うものも散見します。やはりスポンジタイプのスチームプディングベースではあるのですが、薄力粉に代えて一部パン粉が入り、レーズンの代わりに刻んだプルーンが入ります。プディングベイスンの底にもプラムを敷き詰め、そこに生地を入れて蒸すため、ひっくり返すとプルーンの帽子をかぶったように。これもまたレーズン入り同様シンプルながらとても美味しいプディングです。

王族の名を冠したプディングというと、どんなにゴージャスなお菓子が登場するかと思いますが、ヴィクトリアスポンジケーキ然り、意外と飾り気のないシンプルなものが多いのがイギリス菓子。
特別な材料や技術がなくとも、私たちでも作り、味わうことが出来るのがイギリス菓子の大きな魅力の一つですが、それは一般庶民だけでなく王族の方々もそんなシンプルなケーキを好んできたから、なのかもしれませんね。

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宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 、2022年6月「新版BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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