第198話 Ingoldsby Christmas Pudding~インゴルズビークリスマスプディング~

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<Ingoldsby Christmas pudding インゴルズビークリスマスプディング>

世の中クリスマスムード一色、皆さん今年はどんなクリスマスデザートを考えていらっしゃるでしょう。日本風にいちごののったショートケーキ?ブランデーをかけつつじっくり育てたドライフルーツたっぷりのイギリス風フルーツケーキ?近頃はドイツのシュトーレンやイタリアのパネトーネも人気、日本のクリスマススイーツも随分インターナショナルになりました。でもやっぱりわたしはクリスマスプディングを食べずして一年を締めくくることが出来ません。クリスマスプディングを食べながらその年1年を振り返ります。良いことも今一歩なこともあるけれど、感謝と反省を忘れないように、そして来年も慌てず騒がずボチボチやっていこうと。。来年はもっとこのイギリスおかし百科も真面目に書こう。。

黒光りするインゴルズビークリスマスプディング

さて、以前一度、イライザ・アクトンのレシピ本「Modern Cookery for Private Families(1845)」から「The Author’s Christmas Pudding(著者のクリスマスプディング)」を取り上げました。今日はもうひとつ、その本に載っているクリスマスプディングがあるのでそちらをご紹介します。
イライザ・アクトン(1799-1859)とはヴィクトリア時代を代表するクッカリーライター、彼女とその有名な著書「Modern Cookery for Private Families」については、前回簡単にご説明したので、よろしければそちらもご覧ください。

まずは材料をそろえるところから☆

では早速そのもうひとつのクリスマスプディング「インゴルズビークリスマスプディング」にとりかかります。前回再現したレシピ「オーサーズクリスマスプディング」は小麦粉3oz(1oz=約28g)、パン粉3oz、卵3個…など気軽に作れる大きさでしたが、こちらはなかなかにボリュームのあるサイズ。パン粉と小麦粉は各450g、レーズンとカランツは各900g、同じく900gのスエットに、450gのお砂糖と225gのオレンジピール。レモンの皮2個分とナツメグ1個、ミックススパイス14g、そして16個の卵とグラス4杯のブランデー。総重量は軽く5kg超え。一体これを茹でるには、どんなに大きなお鍋が必要なの!と心配していると~最後に、「この分量で3つのプディングが作れます。それぞれ6時間蒸してね。」~ほっと一安心。よくよく見ると、タイトルは「Ingoldsby Christmas Pddings」と複数になっていました、なるほど。
レシピの後にはアドバイスが続きます。「少人数なら1/4サイズにしてもOK。
配合をリッチにしたい時はパン粉と小麦粉を半量にし、アプリコットマーマレードをスプーンで数杯加えるとよいでしょう。そうした場合はプディングに加える水分は少なめで足ります。茹で時間は4時間15分です。」
なかなか親切なアドバイスです。

それではと、腕まくり。今回はアドバイスに従って1/4サイズで作ってみます。配合はリッチバージョンではなく、オリジナルバージョンで。

ブランデーをたっぷりと、、

それにしても、彼女のレシピを見ていつも思うのはその懇切丁寧さ。先ほどの生地をリッチにしたい時のアドバイス然り、このレシピが載っているボイルドプディングの章の冒頭部分には基本的な注意事項が色々書かれています。

・卵は直接ボールに割り入れないで、一つずつ小さなカップに割り入れて、ダメになっていないか確かめてからボールに入れるように、また卵は異物が入らないよう、一度溶きほぐして、こし器を通してから入れること。
・長期保存していた材料は使わないこと。少しでも悪くなったものが混ざればすべてを台無しにしてしまうから。
・オレンジやレモンの皮は苦いので白い部分まで削らないように。
・甘いプディングにほんの少しの塩を加えると、すべての材料の味を引き立てます、けれど、ほんの少しでもそれと分かるほど入れてはいけません。
・ワインやレモン果汁などを生地に加える時は、卵や牛乳を分離させることがあるので、最後に少しずつ、しっかり混ぜるように、などなど。
正直現代のイギリスのレシピ本よりよほど丁寧。

そして気になったのはこの一文。「通常型に入れて茹でられることの多いプラムプディング(クリスマスプディングのこと)ですが、バターを塗ってしっかり粉をはたいた布で包んで茹でたほうが、より軽く、しっとり仕上がります。特にパン粉を使った生地の場合は」。
確かに布で包んでドボンとお湯に入れて茹でるのだから、しっとりは仕上がるだろうけれど、どっしり重くなる印象が強かったこの加熱法。今回作ろうとしている、インゴルズビークリスマスプディングに関してはどちらの方法でボイルしなさいとも記載がないので、今回はアクトンさんのアドバイスには反するけれど、いつものとおり型に入れてボイルしてみることにしました。

 

1/4サイズなので、とりあえず4時間半ほど茹でてみました。
茹であがりは生の状態と比べてずいぶん色が濃くなっています。そして表面は、普段作る現代のクリスマスプディングと比べてずいぶんしっかり。さてお味の程は~ふむ、ちょっと固めだけれど想像よりは美味。そして良い香り。レモンにブランデー、ナツメグにミックススパイス、それにドライフルーツがこれでもかとたっぷり贅沢に入っていますから美味しくないわけはない。でもやはりこれはアドバイスにあった、粉を控えるリッチバージョンにして、布で包んで茹でたらさらに美味しくなるであろうことは歴然。おそらくアクトンさんも、このオリジナルレシピを確かめた後、そう思って、粉やパン粉を減らしてアプリコットマーマレードを加えてみたのでしょう。そしてこっちのほうがずっと美味しいわ、と思ったからこそ、アドバイスに加えておいてくれたのだろうと。元のレシピが伝統あるものなら、それ自体は変えては申し訳ないし、そのまま伝えたいですからね。

いい色に茹で上がりました!

ちなみに名前のIngoldsby。リンカーンシャー南部に同じ名前の人口250人ほどの小さな村の名があるので、そこに由来しているのか、はたまたIngoldsyさんから伝え聞いたレシピなのか、その由来については言及されていないので不明です。

さて、ちょっと固めね、と思ったプディングですが、ソースを添えると俄然ワンランクUP。今回添えたのはやはり同じ章にのっている、スイートプディング用のワインソース。

薄く削ったレモンとお砂糖とお水を15分程加熱し、皮を取り出してから沸騰させ、そこにバターと小麦粉を滑らかに練ったものでとろみをつけます。最後にシェリーかマデイラ、あるいは白ワインを加えて熱々の状態でプディングに添えます。さわやかで、かつ微かな苦みとアルコールの効いた大人の味。

これまで、プラムプディングと呼ばれてきたものをはじめて「クリスマスプディング」と名付けたと言われているアクトンさん。その彼女がクリスマスにふさわしいと選んだプディングですから、おいしくないはずはないですよね。
一見茹で時間が長いように思えますが、今の時代のものも、このサイズになれば最低5時間は蒸したいもの。所要時間は変わりありません。むしろこちらは1ヶ月熟成する必要も、当日蒸し直す必要もなく、すぐに食べられるのだから、スターアップサンデーにクリスマスプディング作り忘れちゃった!なんて時にも最適。「ヴィクトリア時代の本物のクリスマスプディングよ♪」なんて言いながら出したら、かえって感動してもらえそうです。

INGOLDSBY CHRISTMAS PUDDINGS. Mix very thoroughly one pound of finely- grated bread with the same quantity of flour, two pounds of raisins stoned, two of currants, two of suet minced small, one of sugar, half a pound of candied peel, one nutmeg, half an ounce of mixed spice, and the grated rinds of two lemons ; mix the whole with sixteen eggs well beaten and strained, and add four glasses of brandy. These proportions will make three puddings of good size, each of which should be boiled six hours.
Bread-crumbs, 1 lb.; flour, 1 lb.; suet, 2 lbs.; currants, 2 lbs.; raisins, 2 lbs.; sugar, 1 lb.; candied peel, 1/2 lb.; rinds of lemons, 2; nutmegs, 1; mixed spice, 1/2 oz.: salt, 1/4 teaspoonsful ; eggs, 16; brandy, 4 glassesful : 6 hours. Obs. —A fourth part of the ingredients given above, wall make a pudding of sufficient size for a small party: to render this very rich, half the flour and bread-crumbs may be omitted, and a few spoonsful of apricot marmalade well blended with the remainder of the mixture.*

では皆さん、2022年もありがとうございました。来年もイギリスの美味しいお菓子をご紹介していきますので、お付き合いいただければ幸いです。

Happy Christmas!!

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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