第17話 Christmas pudding ~クリスマスプディング~

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okashi


<Christmas pudding クリスマスプディング>

普段は離れて住む家族もこの時ばかりは集い、語らう年に一度のクリスマスディナー。そのセンターピースを飾るのがクリスマスプディング。ブランデーの炎をまとった姿はまさにKing of pudding プディングの王様ともいえる存在感。見た目は真っ黒のかたまりでお世辞にも「すっごく美味しそう!」とは言えないし、かなりずっしりとした食感なので好き嫌いも分かれるところですが、それでもこのプディング無しではイギリスのクリスマスは語れません。

青い炎とブランデーの香りに包まれるクリスマスプディング☆

青い炎とブランデーの香りに包まれるクリスマスプディング☆

別名「プラムプディング」とも呼ばれるこのクリスマスプディング、メインの材料はレーズンやサルタナなどの大量のドライフルーツ(プラムは入りませんが、昔はレーズン類のことをプラムと読んでいたのでこう呼ばれています)。そこに加えられるのはパン粉にスエット(牛のケンネ脂)、卵にりんご、ビールやブランデーなどのアルコール、ナツメグやシナモンなどのスパイス類などなど。これらを全て混ぜ合わせて器に入れ、驚くほど長時間(サイズにもよりますが5~8時間は当たり前!)蒸し上げます。これを最低1ヶ月は熟成させ、食べる直前にまた2時間ほど蒸しなおしていただきます。

Stir up Sunday には13種の材料を時計回りにかき混ぜプディングを作ります☆

Stir up Sunday には13種の材料を時計回りにかき混ぜプディングを作ります☆

いかにも伝統的なプディングと言った風情ですが、一体いつごろから食べられているのでしょう。その時代時代の食糧事情や嗜好によって変化してきているので、どこをスタートとするかは難しいのでしょうが~二つ説があります。ひとつは肉類の保存性を高めるためにドライフルーツやスパイスを加え、それを収穫祭などで食べていたものが始まりというもの。もうひとつのルーツはローマ時代から食べられていた肉類と野菜のシチュー。15世紀に入るとこれにドライフルーツやスパイスが加わり、それがパン粉や卵黄で濃度をつけたポタージュまたはおかゆのようなものになっていきます。その後徐々にドライフルーツや砂糖の分量が増え、肉類の割合は減っていきます。プディングクロスと呼ばれる蒸し布が発明されると、材料をぎゅっと上で包んで鍋に上につるして蒸し煮にするようになり、固形のプディングになります。ディケンズのクリスマスキャロル(1843年)にも登場する真っ黒でまん丸のプディング。炎が灯されるたその姿はまさに大砲の弾。プディングベイスンと呼ばれる陶器の器が発明されてからは、今の植木鉢をひっくり返したような姿になりましたが、今でもクリスマスプディングをモチーフにしたものの多くが当時のまん丸プディングにクリームがたらりとかかった姿なのはこのためです。

まん丸プディングは今でもクリスマスシーズンの代表的なモチーフ☆

まん丸プディングは今でもクリスマスシーズンの代表的なモチーフ☆

さて、ここでクリスマスプディングに関する風習をいくつかご紹介しましょう。
蒸し上げた後の熟成期間が必要なクリスマスプディング。その作るべき日がイギリスでは決まっています。「Stir Up Sunday 」と呼ばれるその日はアドヴェント直前の日曜日、クリスマスの約5週間前。最低13種(イエスキリスト+その12人の弟子達を現しています)の材料をボールに入れたら、家族が一人一人、願い事をしながらかき混ぜます。願い事は心の中で、決して口に出してはいけません。そして混ぜるのは必ず、東から西へ(または時計回り)。これはキリストの誕生に際し、東から西へ謁見しに向かった三賢者に由来しているとも、生命の源でもある太陽の動きに反するのは縁起が悪いからとも言われています。生地ができたらプディングベイスンに詰めて~ここでもうひとつの風習があります。それはラッキーチャームを入れること。銘銘のお皿に取り分けたとき、何があたったかで翌年の運勢を占います。6ペンス銀貨は幸せを、指輪は結婚が近いことを意味します。指貫やボタンはもうしばらく独身でいることを示唆するとか、、、。

上に飾るヒイラギはキリストの茨の冠を模しているのだとか、、、

上に飾るヒイラギはキリストの茨の冠を模しているのだとか、、、

クリスマスの夜、みんなで食べるブランデーの効いたほの温かいプディング。ふわふわのスポンジに生クリームといちごのケーキもいいですが、たっぷりのブランデーバターやクリームを添えたイギリスのクリスマスプディングも是非一度お試しを。身も心もほんわか暖まること請け合いです☆

 

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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2件のコメント

  1. まゆさんはプディング派ですか、私はう~ん甲乙つけがたいけれど、ミンスパイもかなり大好き!クリスマスプディングはフライングでもうすでに数回たべてしまいましたw 実は去年のもまだ残っているから食べ比べしないと。。

  2. おお、ミンスパイに続き、クリスマスプディング。素晴らしい季節ネタ、ありがとうございます!!
    私、ミンスパイよりも断然クリスマスプディング派です。ブランデーソースとかかけてあったらサイコー! 今年は食べるのかなぁ・・・ともあれ、いつも素晴らしい情報ありがとうございます♪

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