<Sussex pond pudding サセックスポンドプディング>
イギリスは南東部サセックス地方にちょっと風変わりなプディングがあります。
「Sussex pond pudding」
直訳するとサセックスの池プディング。「池?」その理由はプディングをカットしてみると分かります。一見いつもの植木鉢をひっくり返したようなプディング型ですが~
「さぁオープン!」
何とまぁそこから出てくるのはごろりと丸ごとのレモンとあふれる液体、、、たちまち器が池のように~そう、もうお分かりですね、これがこのプディングの名前の由来。フィリングとして入れたレモンとお砂糖とバターが加熱されて一体となり、中からソースとなって流れでてくるのです。サセックスのお隣のケント州ではレモンの他にカランツもたっぷり詰めたものが 「Kentish well pudding 」の名で親しまれています。やはりこちらも溢れ出るソースを「well=井戸」で表現。似た様な発想ですが、どちらもこのプディングの特徴をよく表しています。
では作り方をちょっと見てみましょう。プディングの生地はスエットペストリーと呼ばれる、トラディッショナルな生地。高級品だったバターの代わりに、庶民は安価なスエット(牛のケンネ脂)を日々の料理やお菓子に利用していたため、今でも昔ながらのプディング作りには、このスエットペストリーがよく登場します。
現在スーパーで売られているスエットはぱらぱらのお米状に加工されているので、とってもお手軽に使えて、バターより扱いも楽チン。小麦粉と混ぜたらひとかたまりの硬さになるまでお水を加えるだけです。これをプディング型に敷き詰め、あとはフィリングの準備。これがまた驚くほど簡単。だって、お砂糖(デメララシュガーかブラウンシュガー)と角切りにしたバターを詰め込んで、あとはレモンを丸ごとずぽっと置くだけなのですから。そうそう、レモンにはプスプス穴を沢山開けておくことを忘れずに。こうしておけばレモンから美味しい果汁が染み出して、甘酸っぱいソースとなってくれますから。レモンが見えなくなるまでお砂糖とバターを詰め込んだら、ペストリーできっちり蓋をします。
ここまでの所要時間、慣れていればものの15分もあればできてしまうと思いますが、問題はここから。これをなんと3時間半から4時間ほど蒸さなくてはならないのです。先のクリスマスプディング同様なんとも気の長い話ですが、これもだんだん慣れてくるというもの。別にその間お鍋とにらめっこしていろと言う訳ではないですから、気長に他のことをして待ちます(^^)イギリス菓子のよさは、こんなのんびりしたところにもあるのでしょうね。人間あまり便利なものにばかり慣れすぎると、短気になっていけません。私もイギリスに行って「待つ」と言うことを大分学ばされました(笑)さて4時間蒸されたプディング、器に返してみると、まるでオーブンで焼いたかのような狐色に変身しています。
Sussex pond pudding という名が最初に登場するのが、Hannah Woolley の「The Queen-Like Closet (1672年)」という家政書。ただしここではレモンではなく丸ごとのりんごが使用されています。一体いつの間にレモンがりんごに取って代わったかははっきりしないのですが、レモン1個でここまでひと家族がレモンを堪能できるプディングはなかなかありません。日本よりずっと緯度が高いイギリス、昔はレモンも相当高級品だったでしょうから役立つレシピだったに違いありません。できるだけ薄い皮のレモンを使用した「Lemon Bomb(レモン爆弾)」(レモンがペストリーの中で爆発したようになるから~)なんてさらにいいネーミングのバージョンもあったようです。
近頃のこのプディングのリヴァイバルの一因はこのキャッチーな名前にもあるような気がしてしまいますね☆