<Melting moments メルティングモメント>
「メルティングモメント」~とろける瞬間~なんとも甘美な名前をもつこのビスケット。甘い物好きならきっと聞いただけで、ビスケットが Melt in the mouth~お口の中でホロホロとほどけて消える様が脳裏に浮かんでしまう、そんな名前ですね。
このビスケットの特徴は周りにまぶして焼くオーツ(オートミール)と上にのったチェリー。少しご年配のイギリス人なら「メルティングモメント」と言えば誰でもこの姿を想像するはずですが、もう少し若い世代になると、別のタイプを頭に浮かべる人も多いはず。実はイギリスにはもう1つ同じ名前のビスケットが存在します。それは星口金で一口大に絞り出すか、あるいは下の写真のように丸めてフォークで軽く押したビスケットでバタークリームをサンドしたもの。
オーストラリアではメルティングモメントと言えばこのタイプをさすようですが、イギリスでも近頃はこちらのクリームサンドタイプのものが人気です。確かに前者よりちょっとおしゃれな気もしますね。個人的にはチェリーがちょこんとのったタイプのほうがイギリスの紅茶のお供にしっくり来るような気がして好みですが(^^
さて、ノスタルジックな風貌がラブリーなこのお菓子、イギリスで有名になったのはあるレシピブックのおかげといわれています。舞台は1880年代、Thomas Bellと言う人物がNewcaslteに設立した食料品店。ここの目玉商品は「Bells Royal ベーキングパウダー」と小麦粉とベーキングパウダーを混ぜた 「セルフレイジングフラワー」(後にエドワード7世逝去の後、’ロイヤル’ の名を使うことが禁じられたため、Bells Royalの頭文字をとり、「Be-Ro」 とブランド名は改められます)。
今でこそスーパーの粉売り場の半分を占めるほど当たり前のものになったセルフレイジングフラワーも1920年代はまだまだ風変わりな珍品扱い。なんとかもっと気軽に使ってもらおうと、店頭で実演販売したり、無料のレシピブックを配布したりと店は普及に努めます。その甲斐あって、Be-Roのセルフレイジングフラワーは大ヒット商品となり、このレシピブックもイギリス中の若い娘のベイキング入門書として一家に一冊無くてはならないものとなります。1923年の初版当時はたった19ページだったものが、数年に一度ニューエディションが発売され、今ではすでに第41版86ページのレシピ本となっています。その販売累計たるや38,000,000冊、まさにホームベイキングの教科書的存在です。…と、話が長くなりましたが、このBe-Roのレシピブックに紹介されたのが「メルティングモメント」のメジャー化の大きな要因というわけなのでした。
さて昔のレシピと今のものをちょっと見比べてみましょうか。。。
バターの代わりにラードとマーガリンが半々、卵も少なめ、よりショート(サクサク)な食感だったことが分かります。この古いほうのレシピ本ではスコーンも油脂はラードのみ。よりエコノミカルに気軽に家庭でどんどん作って欲しいということだったのでしょう。そして古いBe-Roのレシピブックの表紙はいつも可愛らしい若い女性。地元 Newcastle など北部出身の女性から選ばれ「Miss Be-Ro」と呼ばれこの冊子のトレードマークだったそう☆
花嫁道具の一つとして母から子へ、あるいはおばあさんから孫へと受け次がれたぼろぼろの粉だらけのBe-Roのレシピブック、今でもイギリス中のキッチンに置いてあるはずです。