<Treacle tartトリークルタルト>
Queen of pudding やApple charlotte などパンを利用したお菓子をいくつか紹介してきましたが、今日ご紹介するのはパン粉を使ったタルト。これまでの流れから行くと、もしかしてパンをタルト生地代わりに使うとか?なんて想像されるかも知れませんが、さにあらず。今回はなんとタルトのフィリングがパン粉なのです。それも何か他の材料に少しパン粉を加えるとかではなく、主材料がパン粉というのだから驚き。と言っても、さすがにそのままタルトにパン粉をさらさら入れるだけではお菓子になりませんので、甘みと全体をまとめるために加えるのはゴールデンシロップ。そして風味付けにはレモン、時にはジンジャーも少々。でも本当にこれだけ。ゴールデンシロップでしっとりさせたパン粉をペストリーに詰めて焼くだけなのです。それって美味しいの?思われるでしょうが、これが意外とあり。紅茶のお供にはもちろん、ほんのり温かいトリークルタルトに冷たいアイスクリームやクリームを添えれば立派なデザートにもなりうるのですから、やはりイギリス人の知恵に拍手です。
わたしがイギリスで初対面したトリークルタルトはかなり分厚く、気前よくフィリングがた~っぷり入れられたタイプ。その当時はこの甘~いスティッキーなフィリングの正体も分からず、頭がくらくらするくらいの糖度にイギリス菓子の洗礼を受けた気がしたものでした。それにしても、これ以上イギリス的なタルトが他にあるでしょうか。小麦粉でできたペストリーの中にパンを入れてしまうというこの発想は、さすが余り物のパン使いのプロであるイギリス人。高価なフルーツやクリームなど一切使わないこのタルトは昔は庶民の強い味方として、今はクラシックで懐かしい味として変わらず愛され続けています。昔と言いつつも、ゴールデンシロップが製造され始めたのが1880年代からのため、チョーサーやシェークスピアも食べていた~と言うほど古いわけではありませんが。
ところで、一般に「トリークル」と言うと、イギリスではゴールデンシロップではなく、日本の黒蜜のような真っ黒の糖蜜「ブラックトリークル」をさす言葉。でもこの「トリークルタルト」に使用するのは、ゴールデンシロップ。ちょっと混乱してしまいそうですが、正確には「トリークル」というのは、砂糖を精製する際にできる副産物の糖液全般のことなので、両方トリークルで間違いはないのです。ちなみに、このtreacleと言う単語はラテン語で解毒剤を意味するthēriakē 、古仏語 triacle からきており、以前はイギリスでも「解毒用の薬」という意味で使われていました。この薬は主に蜂蜜を主原料としていたのが、いつしかそれが糖蜜にとってかわり、言葉の意味自体も薬から、糖蜜そのものをさすようになっていったそうです。
アンバーカラーの優しい甘さのゴールデンシロップ、イギリスではフラップジャックやトリークルタルトなどのお菓子に使うだけでなく、パンケーキに、オートミールにそのままかけて、メイプルシロップのように使います。どこかべっこう飴を髣髴とさせる懐かしい甘さなので、日本人にも馴染みやすい味。使いやすいボトルタイプのゴールデンシロップなら、輸入食材を取り扱うお店で見つけることができますので、是非1度お試しを。
2件のコメント
ユカさん☆
はい、簡単なので是非!イギリスのお菓子は得手不得手関係なしですから(^^
これは簡単にできそうで美味しそう!
お菓子作りは得意でない私もチャレンジできそうです。