<Simnel cake シムネルケーキ>
イギリスに春の訪れを告げるイースター。その日は春分の日のすぐ後の満月の次の日曜日と決められているため、3月から4月の中で毎年日にちが変わる移動祝祭日。まだまだ冷たい空気の中、真っ先に咲き始めるのは黄色の水仙やクロッカス、そしてやはり黄色のプリムローズの花。時同じくして黄色のひよこたちを筆頭に新たな生命も一斉に誕生するため、黄色はイースターシーズンのテーマカラー。街中に明るい黄色があふれ、お菓子屋さんの店頭にも、イースターエッグと共に黄色の「シムネルケーキ」がずらりと並びます。
イギリスではイースターのケーキといえばこのシムネルケーキなのですが、耳慣れない名前ですよね。一体どんなケーキなのでしょう。まずは構成から~ベースはドライフルーツとスパイスのたっぷり入ったいわゆるフルーツケーキ。これはクリスマスケーキやウエディングケーキの土台となるフルーツケーキと似ていますが、シムネルケーキの場合はケーキ生地の真ん中に薄く延ばしたマジパンを1層焼き込んでいます。そしてデコレーションも黄色のマジパン。上部をカバーし、さらに11個の丸めたマジパンのボールをおき、表面に軽く焼き目をつけるのがお約束。このボールはユダを除く11人のイエスの弟子たちを表しているといいます。そしてこのSimnelという名前はラテン語で上質の小麦を意味する Similia conspersa に由来しているというのが通説です。ですが私が面白くて好きなのは、こちらの説~その昔、Simon とNelly という夫婦が暮らしていました。イースター当日、少し残っていたパン生地をどうするかで二人は口論になります。Simonは「茹でよう」と言い、Nellyは「焼いたほうがいいわよ」といって譲りません。最終的に、ボイルしてから焼くことに決着するのですが、そのケーキが実に美味しく出来上がり、Simon と Nelly のケーキとして有名になるのです。Simon-Nelly… Sim-Nel…Simnel… シムネルケーキいうわけ。
ボイルしてから焼く?不思議に思われるかもしれませんが、今でこそ「シムネルケーキ」というとマジパンののったオーブンで焼くケーキタイプを指しますが、もともとは地方地方で様々なスタイルのものが存在していました。その中にはパン生地を使うもの、ドライフルーツの入った厚めのビスケットのようなもの、オーブンで焼くだけではなく、上記のもののようにボイルしてから焼くものなど姿も作り方も実に多彩。中でも知られているのはLancashireはBuryという町生まれのドライフルーツやスパイスの入ったリッチなスコーンのようなBury Simnel cake、Wiltshire のDevizesのシムネルケーキは茹でてから焼くタイプで形は星型☆、 Shropshire やHerefordshireで昔食べられていたシムネルケーキはペストリーケースにフルーツケーキを入れ、ボイルしてから焼くというものでした。
いずれにせよ非常に長い歴史を持つシムネルケーキなのですが、本来はイースターと言うよりはレントの期間の第4日曜日 Mothering Sunday のためのケーキでした。16世紀頃の人々はレントのちょうど真ん中の日曜日にMother Church (洗礼を受けた教会あるいは地域のメインの教会)に礼拝に行く習慣がありました。当時は10歳を過ぎた頃から子供たちは奉公に出るなどして働くために家を離れて暮らしていたのですが、この日だけは休暇をもらえ、家族と一緒に過ごすことができました。その際シムネルケーキを焼き家へ持ち帰っていたそうです。今では20世紀にスタートしたアメリカのマザーズデイ(母の日)と混同されがちですが、もともとのイギリスのマザリングサンデーは別物。Mother church に礼拝に行く日。そこへの道すがら貧しい子供たちは教会にお供えするために野の花を摘み、時には母親にも花を贈り、そこから次第に母へ感謝し贈り物をする日、となっていったのがMothering Sunday(マザリングサンデー)です。ちなみに今年(2015年)は3月15日(日)。イギリスでは子供たちがお母さんのために朝ごはんを作りベッドに運んでいく~なんてプレゼントも人気です。
お肉はおろか卵も乳製品も節制するレントに入って4週目、甘いドライフルーツたっぷりのシムネルケーキはさぞ美味しく、楽しみだったことでしょう。しかも久しぶりに家族揃ってですから、なおの事。この日が別名Simnel Sunday あるいは Refreshment Sunday なんて呼ばれていたのも納得です。
さまざまな年中行事と深く関わるイギリスお菓子、興味は尽きませんね~。
2件のコメント
ヒトミンさん☆
ほのぼのするお話しですよね、このシムネルケーキ自体の姿もとってもほのぼの系ですし(^^)
わたしも書きながらいつも心はイギリスに飛んでます(笑)
良いお話ですね!イギリスに行きたくなりました(#^.^#)