第36話 Cornish pasty ~コーニッシュパスティ~

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okashi


<Cornish Pasty コーニッシュパスティ>

「コーニッシュパスティ」。イギリス南西部にあるコーンウォール地方の郷土食。お菓子というよりは食事系ペストリーの範疇に入りますが、イギリスベイキング(ケーキ、ビスケット・パンなど基本的にオーブンで焼いて作る粉もの)を語る際、そのポピュラーさからも是非紹介しておきたい存在。

ずっしりボリューミーなパスティは大きな口を開けて頬張りたい☆

ずっしりボリューミーなパスティは大きな口を開けて頬張りたい☆

シンプルなペストリー生地で牛肉や野菜などのフィリングをたっぷり包んだパスティ。コーンウォールに行くと専門店が軒を連ね、老いも若きも巨大な半月型のそれにかじりついている姿を目にしますが、近頃ではイギリス各地にパスティ屋さんが広がり、人気のファストフードとなっています。野外のイベントではイギリス国民食のバーガーと並んでパスティの屋台を見かけることも珍しくはありません。そんな専門店ともなるとフィリングの種類も豊富。基本の牛肉+じゃが芋+スィード(Swede: カブの一種)の他に、オニオン&チーズやベーコン&エッグ、ポーク&アップル、時にはアップル&フィグなどの甘いもの系までさまざま。どれも美味しそうで試してみたくなりますが、実はこれらはパスティとは呼べてもコーニッシュパスティとは呼べないことになっているのです。

どれもおいしそう、、種類豊富で迷ってしまいます☆

どれもおいしそう、、種類豊富で迷ってしまいます☆

というのも「コーニッシュパスティ」はスティルトンチーズのように「チリ的表示保護(PGI)」に認定されているため、定められた材料を使い伝統にのっとった製法で作られたものでないとその名を冠せないことになっているから。ではその伝統的なコーニッシュパスティとはなんぞや?フィリングからご説明すると~まずは牛肉、これをパスティ全体の総量の12.5%以上、次に野菜類。じゃが芋、玉ねぎ、スイード合わせてやはり総量の25%以上、これらを塩コショウで味を整えたものと決められています。また、これらを必ず生の状態のままペストリー生地で包まなくてはなりません。そしてこの包み方にも決まりがあります。丸く延ばしたペストリーにフィリングをのせたら、Dの形(半月型)になるよう横でねじりながらきっちりととめることが必須。この包み方には少々コツがいるため、家庭などで作るときは巨大な餃子のように上で閉じることが多いのですが、これはNG。そしてもちろんコーンウォールで作られたものであること。これらを満たさないと正確には「コーニッシュパスティ」と称することはできないのです。それにしてもここまで「コーンウォールの」にこだわる理由は何なのでしょう。それはコーニッシュパスティがコーンウォールの人々の生活と歴史から生み出された大切な産物だから。

家庭で作るときは、巨大餃子風のこの整形が一般的☆

家庭で作るときは、巨大餃子風のこの整形が一般的☆

イギリスの中では珍しく青い海と穏やかな気候でリゾート地としても人気のコーンウォールですが、錫や銅などの鉱物にも恵まれた土地で、かつてはそれらの採掘が盛んに行われていました。鉱山の仕事は命がけの重労働。人々は朝から晩まで暗い坑内で働かなくてはなりませんでしたが、そんな彼らのエネルギー源となったのがパスティ。安価な材料で栄養たっぷり。汚れた手でもそのねじり留められた耳の部分だけを持てば、他は汚さないで食べることができます。そしてその耳の部分は鉱山に住むといわれる精霊Knocker のためにその場に残されたとか。万が一落としてしまっても壊れないくらい丈夫であることも上手なパスティの条件だったそうです。他にも鉱山で働く夫のために、鉱夫の妻たちは工夫を凝らしました。例えばひとつのパスティの片側をお肉と野菜のフィリング、もう片側をりんごとジャムなどの甘いフィリングにし、ひとつのパスティでデザートまで楽しめるようにしたり、パスティの端の部分に夫のイニシャルを記し、たとえ食べかけで置いておいても、他の人のものと区別できるようにしていたそう。

少し練習して本物のコーニッシュパスティ風に作れたら自慢できちゃう?

少し練習して本物のコーニッシュパスティ風に作れたら自慢できちゃう?

そんな背景を知ってみると、なるほど彼の地で食すパスティのびっくりするほどのボリュームも納得。これくらいはないととても重労働には耐えられないでしょうから。でも、やっぱりあれもこれも食べたい欲張り者としてはできれば昔の奥様のように2種類違うフィリングを半分ずつ入れて欲しいな~なんて。。。毎年コーンウォールで開かれるワールドパスティチャンピオンシップ。トラディッショナルなコーニッシュパスティ部門の他にOpen savory 部門として各自工夫を凝らしたフィリングを入れていい部門があるのですが、今年(2015年)はSmoked haddock(燻製のタラ)パスティが受賞。伝統的に人参と魚は入れないとされてきたパスティ(漁師がパスティを船に持っていくのは縁起が悪いという言い伝えがあるため)なので、魚介類が入ったパスティはまず目にすることがないのですが、スモークしたタラ入りのパスティ、、、う~んそれも美味しそう☆

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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