第114話 Knickerbocker glory/ 99 Flake~ニッカボッカグローリー/ナインティナインフレイク~

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okashi


<Knickerbocker glory / 99 Flake  ニッカボッカグローリー / ナインティナインフレイク>

愛嬌たっぷりのイギリス菓子、妙ちきりんな名前のものは数あれど、響きが愉快で個人的に気に入っているのが、ジャムローリーポーリーに、アップルダッピー、そして今日の主役 「Knickerbocker glory(ニッカボッカグローリー)」。「ニッカボッカ? ニッカボッカってあれでしょ、ゴルフをする時やとびの職人さんが履く膝の下辺りで裾がきゅっと締まったふんわりズボン」。そう、イギリスでも「ニッカボッカーズ」と言えば、そのタイプのズボンのことを指すのですが、それにグローリーが付くと意味はまったく変わって「パフェ」のことを指します。背の高いガラスの器にたっぷりアイスクリームとフルーツソース、チョコレートやホイップクリームなどを盛りつけたそれは、日本のサンデーやパフェと呼ばれるものとほぼ一緒。もちろんイギリスでも「サンデー」や「パフェ」と言っても通じなくはないけれど、「Sandae(サンデー)」はアメリカ発祥の単語で、「Parfait(パフェ)」はフランス、しかもこちらはイギリスでは「Chicken liver parfait(チキンレーバーパルフェ)」などのようによりなめらかにしたお肉のパテを意味することもあるので、少々紛らわしいことも。そんなこんなでトラディッショナルなイギリスパフェを表す言葉は「ニッカボッカグローリー」なのです。kinickerbocker 1

それにしても、アイスクリームのデザートに一体どうしてズボンの名がついたのか?それが実は謎。Knickerboker自体はもともと「History of New York(1809)」という本の著者のペンネーム、 Herman Knickerbocker に由来していると言われています。そして後にニューヨークに落ち着いたオランダからの移民、延いては彼らが当時よくはいていた裾すぼまりのズボンがニッカボッカグローリーと呼ばれるようになったのが始まりだとか。でもそれはニューヨークでのお話し、イギリスのアイスクリームとの関係性は見えてきません。ひとつ言われているのは、1920年代、Lyon’s bakeryが経営していたカフェが洋服の名前をつけたアイスクリームをいろいろ提供しており~例えば「Plus four(ひざ下4インチの丈のズボンのこと)」、「Charlie Chaplin Waistcoat(チャップリンのベスト)」といった具合~ニッカボッカグローリーはその中のひとつだった、という説。他にも諸説あるのですが、どれも決定打に欠けるため、結局は謎、ということに落ち着いているようです。いずれ登場したのは1920年代、その後子供たちの憧れのデザートとして君臨、今は子供たちだけではなく、そのレトロ感を逆手に在りし日を懐かしむ大人たちにもアピールし、一定の地位を築いています。

大人も子供もワクワクしちゃいますよね☆

大人も子供もワクワクしちゃいますよね☆

さて、今日もうひとつご紹介したいイギリス懐かし系コールドスイーツが、ニッカボッカグローリーとも共通項の多い、「99」。正確には「99 Flake ice cream (ナインティナインフレイクアイスクリーム)」ですが、一般的には単に「ナインティナイン」と呼ばれているもの。それだけでは何のことやらサッパリですが、要は日本で言うところのソフトクリーム。そのソフトクリームにキャドバリー(イギリスのチョコレートメーカー)の99フレイクというチョコバーを刺したもののことなのです。イギリスの公園や大きなスーパーなどで今もよく見かけるソフトクリーム&アイスキャンディーの移動販売カー。99アイスクリームはその主力商品。

ハラハラのフレイクはソフトクリームとの相性抜群なのです☆

ハラハラのフレイクはソフトクリームとの相性抜群なのです☆

1920年発売開始のキャドバリーの人気商品のひとつ「Flake」。紙のように薄いチョコレートの層が何層にも折り重なったチョコバーなのですが、ある時これを短くカットしてソフトクリームにトッピングするのが巷で流行します。それでははじめからソフトクリーム用に短いものを売りましょう~と1930年より販売されたのが、「99 Flake」。さぁまたここでニッカボッカグローリーと同じ疑問が浮かびます。何故に99、その名前はいづこから?これが共通項が多いといった理由。「アイスクリーム(ソフトクリーム)」、「名前だけからはそれが一体なんなのか想像がつかない」、「生まれ年代がほぼ同じ」、そして「名前の由来が謎」。そう、キャドバリーという大手メーカーの商品名にもかかわらず名前の由来が謎なのです。今回は、子供たちの間で、また大人たちの間で長い間まことしやかにトリビア的に語られたきた諸説が実に多種多様で面白いのでいくつかここに挙げてみます(^^
●  99フレイクの長さが99mmだから(発売当時はインペリアル法なので ×)
●  99アイスクリームの値段が99ペンスだったから (当時はもっと安かったので ×)
●  99フレイクの層が99層あるから
●  フレイクの断面を見ると9の数字が重なったように見えるから
●  イタリアの王様側近の精鋭部隊が99人で構成されていたので、そこから優れたものを意味して「99」と名付けた(当時イギリスにはイタリアのアイス職人が多くいたため)
●  Askeys(アイスクリーム用のコーン&ウエファーメーカー)の99アイスクリーム用のコーンの品番が99だったから
etc…

などと諸説流れる中、ある日スコットランドからこんな声が上がります。エジンバラのアイスクリームメーカー Rudi Arcari さん、彼女のおじいさんStephenさんが1920年代フレイクを半分に折ってソフトクリームにトッピングして売る事を考案、その商品をお店の住所 99 Portobello High St. からとって「99」と名付けます~そして当時店にフレイクを卸していたキャドバリーが短いフレイク を売ることを思いつき、それを「99」と名付けたというのです。一番ありそうな話しではあるのですが、この説も証拠に欠けるらしく、今も、キャドバリー、OEDともに、名前の由来はunknown としているよう。100年も前の話ですからそうクリアな答えを見つけるのはもう難しいのかもしれません。

そうそう、ちなみにソフトクリームに99フレイクを2本刺したものはその姿から通称「Bunny’s ear バニーズイアー(ウサギの耳)」。そして、赤いラズベリーソースをたらりとかけるトッピングは 「Monkey’s bloodモンキーズブラッド(猿の血)」と呼ばれていたとか~いやはやこれまたニッカボッカグローリーも、99をも吹き飛ばすなかなか強烈なネーミングです。小さな女の子がコインを握りしめながら
「バニーズイアのモンキーズブラッドで!」って、、、(^^;)

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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