<Snowdon pudding スノードンプディング>
ウェールズの北西に位置するスノードニア国立公園。その最高峰スノードン山の名を冠した「スノードンプディング」が本日のお題。
まずは外見から観察。。。
ごつごつとした山頂を思わせるレーズンをトップに抱き、ベースは山肌を思わせる茶褐色の見るからにどっしりとした伝統的なスエットプディング。おなじみのこのイギリスプディングの形がこんなにも山の姿を表現するのにぴったりな形だったことに、このプディングを見るまで気づかなかったなんて、、、。今度、Mt. Fujiプディングでも作ってみようかしら、、なぁんて余計なことはさておき、
18世紀末から食べられているというこのスノードンプディング、文献に残されているもっとも古いレシピの一つが、Eliza Acton 著「Modern cookery for private families (1845)」に載っているもの。それによると~半パウンドのスエット、同じく半パウンドのパン粉、1.5オンスの米粉、一つまみの塩と6オンスのレモンマーマレード、そして、6オンスのブラウンシュガーと卵6個、レモンの皮2個分をよく混ぜたら生地の完成。それをバターを塗ってレーズンを敷きつめた型に流し、1時間半ほど茹で蒸しにすれば出来上がり~というものです。
そしてレシピの後の説明には、「スノードン山の麓のホテルでふるまわれている、旅行客に人気のプディングです…」と続きます。「ワインソース、アロールート(クズウコン)ソース、ジャーマンソースなどスイートプディング用ソースならなんでも合うので、上にかけるか、脇に添えてサーブするとよいでしょう」~とも書いてありますが、このエリザ・アクトン女史後のレシピを眺めてみると、レモンソースと共に供されていることが多いよう。確かに中にはたっぷりのレモンのマーマレードと皮が入っていますし、全体を多少軽やかにしてくれるレモンソースはぴったり。 ごつごつとしたレーズンの頂に白いソースをかければ、まるでスノードンの山頂に雪が降り積もったかと目をこすりたくなるほどの季節感(?)も味わうことが出来ます。
このプディングはハイキングや、1896年から続く人気の登山列車を楽しみに来た観光客たちの楽しみの一つだったことでしょう。ちなみにスノードンはウェールズ、イングランドの中で最も高い山、標高1065mです。あれ?あんまり高くない?いえいえ、そんなことは言いっこなし。思わず深呼吸したくなる雄大な森林と湖、雨が多く変わりやすいお天気、スノードニア国立公園はイギリスの自然を満喫できるウェールズきっての観光スポットなのです。
そしてもちろんウェールズのお菓子ですから、ウェールズ語の名前もあります。それが 「Pwdin Eryri」。Eryri=high place、直訳すれば「高い場所のプディング」ですが、実は中世より、ウェールズの人々はスノードニア自体をEryri 、スノードンのことは Yr Wyddfa=Snowy Hill (雪の降る丘)と呼んでいました。つまり、ウェールズ語のPwdin Eryriはスノードン限定ではなく、スノードニアのプディングという意味だったのですね。
今は現地に行っても、このオールドファッションで重くずっしりとしたスエットプディングを提供してくれるお店はあまりないようですが、家庭では、まだまだこのプディングが現役で作り続けられていますように、と切に願ってしまいます。寒い季節、冷たい風に吹かれて真っ赤になった顔や手、そしてペコペコのお腹を温めてくれるのに、これほど最適でイギリスらしいプディングはありませんから。