Rules ルールズ
「まゆさん、ルールズって行ったことあります?」
「(ギクッ)いや〜実はまだないんですよね」
「すごくいいですよ。内装も、食事も。歴史の重みというか、重厚感があって。おすすめです」
ロイヤル・バレエのプリンシパル、平野亮一さんの連載がスタートした直後、タパス・バーで一杯飲んだときにそう言われてドキリとしたのも、今はいい思い出^^ そんな会話になったのは、ルールズがそのタパス・バーがある通りと同じ、コヴェント・ガーデンのMaiden Laneにあるからです。
確かにロイヤル・オペラ・ハウス(1732年創設)のすぐそばだし、劇場街の中にあるので歴史的には多くの文化人が通ったお洒落でトレンディなレストランだったに違いありません。ルールズは1798年にオイスター・バーとして創業したようなので、そんなお客を当て込んだのは間違いない。創業者はお魚を扱うビジネスをしていたようです。
こんな逸話も。Maiden Laneは1857年まで通り抜けができなかったそうなのです。そこでアデルフィ・シアターでヴィクトリア女王を下ろした馬車が、折り返す必要がないようにと、通り抜けできるようにしたとのこと。
お店の公式ページによると、通り自体は1630年頃(チャールズ2世の頃)からボツボツと建物ができ始めたそうですが、実はもっと前から古代の道の一つとして人々の行き来があったとのことで・・・まぁとにかく、ふる〜い通りなのであります。
ルールズはロンドン最古のレストランと言われ、国内外でとても有名なのですが、ロースト・ビーフやオイスターに強い執着がない私には「どうしても行きたいレストラン」ではなかった。それが。またしても友人とMaiden Laneにあるワイン・バーで飲んでいたとき、帰り道でルールズを“発見”。「おや」と思ってそのレストランに見入った後、二人で顔を見合わせ「行ってみたいね!」となったわけです。レストランにいつ行くか。そのタイミングもご縁としか言いようがありません^^
ところで今、クリスマス時期ではないですか。11月の時点で、ルールズはもう予約がほぼ取れない感じになっていました。甘かった。そこで苦肉の策として、午後4時というミラクルな時間に行くことになりました(笑)。ルールズはほぼランチから夜まで通し営業しているのです。助かった!
そして当日。少しばかりおしゃれをしてやってきました。初ルールズ。実は「ルールズ」に全く先入観なしの状態で訪れたので、その全てを享受することができました♪(ドレスコードはなく「スマート・カジュアルがいいね」というスタンス)
まずメニューですが、パイ料理に力を入れているようです。正直、今のロンドンの物価が上がり過ぎているため、ステーキ&キドニー・パイやチキン・パイが24.95ポンドと聞くと、お手頃感さえあります。きょうびパブでさえも、主菜は20ポンド以上しますから。もちろん有名なロースト・ビーフも。こちらは大皿に盛られてくるので2人前からで、この日もウェイターさんが抱えているのを何皿か見ることができました。
前菜セクションに惹かれるものがなかったので、この日は二人とも主菜から突入。デザートを食べる気満々で(笑)。それが大正解!
友人はキジ胸肉のロースト+ブレッド・ソースを、私は豚ほほ肉の煮込み+レンズ豆を。
じっくりと煮込んだ豚ほほ肉は大好物。しかもバターナット・スクワッシュとレンズ豆の甘辛い付け合わせがお肉にピッタリ。肉質はとても柔らかくホロホロ状態、サイダーソースで煮込んでいるのか、こちらも同じく甘辛い味付け。花梨のピューレがお肉の味を引き立てます。全てが調和の中にあり、日本人の舌には嬉しく完食。正直完璧な一皿でした。お友達のキジも一口いただいたのですが、とても新鮮で良い品という印象を受けました。付け合わせのキャベツも美味しい!
一つだけ残念だったのは、サイドでお願いしたビーツ&アップル+ピーカンナッツのチコリ・サラダ。ここは伝統の英国料理らしく(!)ドレッシングなしで登場。塩胡椒はテーブルに置いてあるのですが、オリーブ・オイルを別途お願いしないといけない感じで、パサパサ感が^^ ここは伝統の作法であり、国外から来られた皆様には本当に申し訳なく・・・^^;
ただ・・・好みでないドレッシングが大量にかかっていたり塩が強かったりするよりも、さっぱりといただけたのでそこは良かったのかなと。英国式も慣れると良し(笑)。
そしてデザート。
普段甘いものをあまり食べない左党の友人が、なんとこの日はブレッド&バター・プディング! 私は迷いに迷ってアップル&クランベリー・クランブル♡ 結論から申しますと、ルールズのペイストリー・シェフはすごい! めちゃ優秀です。本当に味のバランスが良く美味しい。これぞ英国プディング。素朴ですが、過不足のない甘さ、そしてかなりジェネラスな分量。カスタードのお味は天下一品。今度もまた、デザートを満喫しに来たいな^^
ルールズと言えばカリカチュア画の装飾で有名です。壁に所狭しとばかりにさまざまな絵がかけられているのですが、一番びっくりしたのはこちらの壁画。
マーガレット・サッチャー女史がドラクロワの自由の女神よろしく「ルール(規律)」を掲げてイングランドを率いているではないですか^^; (ただし皆が付いてきているかどうか、後ろを振り返って確認する素振りはないですがw)
ルールズが創業した頃は、ちょうどその10年前にフランス革命が起こり、勢いづいたナポレオンが各国に戦争を仕掛けているという世の中です。イギリスは屈せずナポレオンとの戦争を続け、ついにトラファルガーの海戦で勝利します。日本は江戸時代の後期。黒船がやってくる約50年前です。なんとなく時代背景がわかりますね。
そこから約120年間にわたって、創業一族であるルール家がオーナーでした。第一次世界大戦が始まる頃、ルールさんはパリ移住の夢を叶えるため、パリでレストラン経営をしているイギリス人、トム・ベルさんと事業を交換したそうです。その後、イギリスが英国病に陥っていた1960年代から1970年代は天下のルールズも厳しい時代を迎えたようですね。
1984年にトムさんの娘さんがジョン・メイヒューという事業家に店を売却し、現在の体制に。メイヒューさんは、身一つでイギリスからアメリカに渡って莫大な財産を築いたフィールド一族の末裔。メイヒューさんの大叔父がアイルランド貴族と結婚したこともあり、フィールド家は潤沢な資金でヨークシャーにある広大なエステートを購入。地元の狩猟肉の取り扱い業者との連携で、ルールズも最高品質のゲーム肉(ジビエ)を入手できるのだとか。
そして2023年、30年以上に渡ってジェネラル・マネージャーを務め、役員の一人でもあったリチャード(リッキー)・マクメネミーさんが実質的なオーナーさんに。また新たな歴史が始まっているというわけですね^^
ウェブサイトに掲げられているロゴをよく見ると、1998年に迎えた創業200年祝賀の文字が。1998年は私がちょうど渡英した年なので、本当に歴史を感じさせるレストランだなと思います。
古色騒然としたイメージを持たれている方もいると思いますが、「イギリス人が望むレストランの形」を、脈々と受け継いできたロンドンの宝だという印象を持ちました。
歴史の重みを感じさせると同時に、現代との関わりにも開かれている。客層も年配の地元の人が多く、彼らがまた、子ども世代を連れてきている。決して旅行者だけが訪れているわけではないようです。まだ試してない方は、ぜひ。あなたが望むイギリスのカルチャー体験ができること請け合い^^ イギリス人が暗黙のうちに守ろうとしている「ルール」のようなものも、見え隠れしているかも!?