<Summer pudding サマープディング>
その名も「夏のデザート(プディング)」。冷たくて甘いものなら何が出てきてもおかしくないような名前ですが、イギリス人が「サマープディング」と聞いて頭に浮かべるのはただひとつ。夏に採れるベリー類をふんだんに使った鮮やかな深紅のプディングです。イートンメスと共に間違いなくイギリス夏プディングの双璧。
作り方は非常に合理的なイギリススタイル。以前ご紹介したアップルシャルロットのように、食パンをペストリー代わりに使います。しかも今回は焼かずに冷やすだけ。プディング型あるいはボールのようなものに食パンを敷き詰め、砂糖を加えて加熱したベリー類を詰めて冷やすだけなのです。食パンで蓋をして、重しをのせて冷蔵庫で寝かせるうちにベリーの果汁がパンに染み込み、全体が均一な色に染まれば完成。生クリームをたらりとたらしていただけば、「あら~イギリスプディングなのにこんなにフルーティーで爽やかなんて~」ときっと驚かれることでしょう(笑)。それもそのはず、このプディングの昔の名は「Hydropathic pudding(ハイドロセラピープディング)」。水治療に限らず、病院や高齢者のための施設などで、いつものイギリス的なスエットやバターをたっぷり使った重いプディングを食べられない人たちのために作られたプディングと言われています。もちろん、誰が食べても美味しいプディングですから、じきに病院だけでなく広く人気のデザートとなっていくわけですが、さすがにもうちょっと食欲をそそる名前にしようと思ったのか、1900年代に入ってからは「サマープディング」の名で呼ばれるようになります。
メインのフルーツはラズベリーにレッドカラント(赤すぐり)、ブラックカラント(黒すぐり)。いちごは入れてもかまいませんが、全体の色が薄くなってしまうので、入れ過ぎ注意。ちなみにイギリスの料理研究家Nigel Slater氏の黄金比はブラックカラント150g、250gのレッドカラント、500gのラズベリーだそうです。そして、上手に作るポイントはちょっと古くなった乾きめのパンを使うこと。あまりフレッシュなパンだと、ベリーのジュースが染み込まず斑になってしまうこともあるので。このプディングを教わる際、もうひとつ気をつけるように言われたのはパンの質。安いスーパーの大量生産のパンを使うと、「ぬめっとした食感になって、美味しくないのよ」だそうです。再度ナイジェル氏いわく~「Soft ‘plastic’ bread turns slimy rather than moist. God knows why it turns so nasty – it’s like eating a soggy J cloth.(ソフトなあの人工的なパンを使うとしっとりじゃなくて、ぬるっとしちゃうんだよ。ひどいことになるんだ、まるでびしょびしょの J クロス(使い捨ての台ふきん)を食べてるみたいさ)」。一度私もやってしまったことがあるのでこの表現、思わず膝を打ってしまいました(笑)。
そうそう、ラズベリーやスグリやいちごのシーズンが一気にやってきた後、ちょっと遅れて実るのがブラックベリー。このブラックベリーとりんごや梨、時にはプラムなどを使い同じように作って「オータムプディング」(秋のプディング)なんてバリエーションも近頃は目にするようになりました。こちらはあくまでサマープディングありきの存在ですが。これはこれでブラックベリーやエルダーベリーなどを使うためダークな紫が美しい秋らしいカラーのプディングとなります。伝統的なプディングのリメイクが流行中のイギリス、探せば「ウインタープディング」や「スプリングプディング」もありそうですね。
漠然としすぎてはじめはどうなの?と思った名前の「サマープデイング」、~実は夏の太陽をぎゅっと凝縮したベリーの甘酸っぱい味を端的に表現した、なかなかいいネーミングなのかもしれません。知り合いのイギリス人は子供の頃、夏のキャンプでよく作っていたそうですよ。日本で作るならベリーは冷凍でも構いません、好みの量の砂糖を加えて形が崩れない程度に加熱したら、食パンを敷き詰めた器に詰めて一晩寝かせるだけ。今年の夏は是非お試しあれ~(ひっくり返してから、まだパンの白い部分が残ってた~なんてこともよくあるので、修正用に少し果汁を残しておくことも忘れずに☆)。