第64話 Dundee cake~ダンディーケーキ~

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イギリスおかし百科


<Dundee cake ダンディーケーキ>

「ダンディーケーキ」。残念ながら「ダンディーな男前のケーキ」ということではありません。スコットランドの海沿いの街 Dundee 生まれだからダンディーケーキ。イギリスでよく見かけるドライフルーツたっぷりのどっしりフルーツケーキで、特徴は中に入れるオレンジピールとその上に放射状に並べられた皮むきアーモンド。なかなかリッチな味わいです。ただし、リッチさで言えば、伝統的なクリスマスケーキに比べると、そのドライフルーツの含有量はまだまだかわいいもの。クリスマスケーキはちょっと重すぎて、、、という向きに、その代わりとしても人気があります。

一目でそれと分かる放射状のアーモンド飾り☆

一目でそれと分かる放射状のアーモンド飾り☆

さて、なぜこのケーキがダンディーの街で生まれたのかというと、この街はもともとマーマレードの街としても有名なのですが、このマーマレードを最初に売り出したメーカーがマーマレード作りのシーズン以外にも作れる商品を~というので売り出したため。そしてこのマーマレードメーカーというのが今も有名な James Keiller and Son のこと。

苦~いセヴィルオレンジを使ったマーマレードにケーキはその苦味がいいアクセント☆

苦~いセヴィルオレンジを使ったマーマレードにケーキはその苦味がいいアクセント☆

『18世紀にこの街で食料雑貨店を開いていた James Keiller 氏が、ある日嵐で動けなくなっていたスペインの商船より大量のオレンジを買い取ります。ところがそのオレンジは生食には適さない苦いセヴィルオレンジ、困った氏は妻のJanet に託したところ、彼女はとても美味しいマーマレードを作りだしました。これがマーマレードの始まりです~』 というのがこれまでよく聞いたお話し。ところが最近の調査で分かったのはこの話しの舞台となる時代のダンディーには、Jamesと Janetという夫婦は存在しておらず、JamesはJanet の息子だったということ。Janetはマーマレード自体を発明したわけではなく、当時からすでに存在していたマーマレードに工夫を凝らし、オレンジの皮が中に散った新しいタイプのマーマレードを生み出し、それが大評判となったことなど。でもまぁ例え Janet さんがマーマレードの生みの親でなくとも、おいしいマーマレードを作り出したことは確か。そしてそのおかげで、イギリス国中の朝のテーブルに欠かせなくなるほど、マーマレードの人気は広がったのですから、マーマレード界の革命マダムであることには変わりはありません。それから200年以上、持ち主は変わりながらも今も「James Keiller and Son」の名でダンディーのマーマレードは作り続けられ、世界中にその名を知らしめています。21世紀の今でもなお、イギリスの朝食のパンのお供と言えばマーマイトとマーマレードは双璧。ダンディーマーマレードはじめ、スーパーにはとにかく驚くほどの種類のマーマレードが並びます。皆それぞれお気に入りがあるようで、皮を極力薄くスライスしたThin cut、 厚めがお好みの人にはthick cut マーマレード。皮はまったく入らない透明なジェリー部分だけのnon peelマーマレード。色の濃い苦味が利いたvintage マーマレード。スコッチウイスキー入りや果ては金箔入りまで見かけるほど。メーカー別では Frank Cooper’s のVintage Oxfordや Wilkin and Sons Tiptreeの Old times’ Orange 、Robertson’s のGolden shred などが人気のようです。

あなたは苦めがお好み?それとも、ピールなしのライトなマーマレード?

あなたは苦めがお好み?それとも、ピールなしのライトなマーマレード?

そもそもmarmalade とはポルトガルの「Marmelada」に由来した名前。16世紀にヘンリー8世へと贈られたマルメラーダとは マルメロ(英語でquince)を使って作る固いゼリー状もので、今のイギリスのチーズ売り場に置いてある、クインスジェリー(またはクインスチーズ)のようなものだったとか。

紅茶のお供にもいいけれど、クリスマスにお酒と楽しむのもたまりません☆

紅茶のお供にもいいけれど、クリスマスにお酒と楽しむのもたまりません☆

ダンディーケーキからマーマレードの話しになりましたが、ダンディーケーキ自体も今ではイギリス国中で見かけることが出来ます。アーモンドの飾りも豪華なダンディーケーキは贈り物としても喜ばれるため、特にクリスマスシーズンの12月には人気のケーキ。ただ、あまりにどれもこれもがダンディーケーキとラベルを貼るため、本家のダンディーとしては面白くなかったようで、目下PGI(Protected Geographical Indicator 原産地名称保護制度)status に申請中。これが認められると、EU圏内ではダンディーの街で定められた材料とレシピを使い焼かれたケーキのみ「ダンディーケーキ」という名称を使えるようになるのだそう。これにはダンディーケーキを主力商品にしているダンディー以外のお店からは商売上がったりだと反対意見轟々のようですが、、。ちなみにこのPGIの申請書に記載されている本家本元ダンディーケーキの原材料はと言うと~有塩バター、砂糖、卵に小麦粉。厚くカットしたセビルオレンジの皮が最低5%にオレンジの皮のすりおろし最低1%、サルタナ最低27%に皮むきアーモンドが最低3%。オプションとしてシェリー酒とアーモンドパウダー、割りアーモンド。保存料としてのクエン酸~だそうです。
美味しいダンディーケーキがダンディーの街以外でも気軽に手に入るのはうれしいけれど、自分たちの街の名がついたケーキのクオリティーを守りたい気持ちも分かるし、、、。クリスマスまであと10日足らず。誰か私にも美味しいダンディーケーキ贈ってくれないかなぁ~なんて、やっぱり自分で焼かないとダメかしら、、、。

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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