第155話 Scottish Pineapple tarts/ Scottish fern tars スコティッシュパイナップルタルト/スコティッシュファーンタルト

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イギリスおかし百科


<Scottish pineapple tarts /Scottish fern tarts スコティッシュパイナップルタルト/スコティッシュファーンタルト>

いつぞやふと立ち寄ったスコットランドのベイカリーで目に飛び込んできたお菓子。それは鮮やかな黄色で、やけにこんもりとしたドーム状のちょっと変わった形のタルト。他のベイカリーをのぞくとそこにも同じようなものがあります。軽く中央が盛り上がっただけのものから、まるでとんがり帽子のようなもの、黄色の濃さも淡いものから派手な黄色まで、お店によって異なるけれど、どうやらこれはスコットランドではメジャーなお菓子らしい、、、その名札を見てみると~そこには「パイナップルタルト」あるいは「パイナップルケーキ」の文字。イギリスで、しかもこんな北の地方でパイナップルとは珍しいわね、と試しに一つ買って食べてみました。黄色に色づけられたフォンダンの下に潜んでいたのは、パイナップルジャムと生クリーム。これがさっくりしたペストリーと相まって、食感といい、パインの酸味といい絶妙なバランス。スコットランドとパイナップルというギャップも手伝ってか、なかなか印象深いお菓子でした。

こんもりスタイルがキュートなスコティッシュパイナップルタルト☆

こんもりスタイルがキュートなスコティッシュパイナップルタルト☆

それにしても「スコティッシュパイナップルタルト」と呼ばれるこのお菓子は一体いつ頃誰が作り出し、なぜスコットランドでこんなに普及しているのでしょうか?どうにも気になるけれど、今のところこれだという手掛かりはなし。スコットランド以外でも、一部スーパーやベイカリーで、ここまでドーム状ではないけれど、やはり黄色のフォンダンで覆われた「パイナップルタルト」が売られていたりしますが、これはおそらくスコティッシュパイナップルタルトの亜流。

とりあえず、パイナップルタルトの源流が分からないので、パイナップルそのものについて~コロンブスが西インド諸島からパイナップルを持ち帰ったのが1493年。その不思議な形状と、他にはない魅惑的な香りと味わいのフルーツがヨーロッパの王侯貴族を虜にし、その希少性から贅沢品としてあがめられるまでに時間はかかりませんでした。イギリスでは1675年に初めてその栽培に成功するものの、その後もしばらくは高嶺の花。なんでも、パイナップル1個が馬車1台とほぼ同じ値段がついていた時代もあったそうです。なるほどどおりでイギリスの家具や建築、テキスタイルなどにそのモチーフが多く用いられているはず。豊かさの象徴であり、憧れの存在だったのですね。

ちゃんとパイナップルの存在感のあるタルトに当たれば美味しいはず☆

ちゃんとパイナップルの存在感のあるタルトに当たれば美味しいはず☆

 

18世紀、Pinery(パイナリー)と呼ばれるパイナップル専用の温室を作り、こぞってパイナップルの栽培を競った貴族たち。19世紀になると西インド諸島から輸入されるようになり、庶民でも多少目にする機会が増えるようになったのか、ビートン夫人の家政書(1861)にも「パイナップルフリッター」なるレシピが登場するまでになります。こちらも美味しそうですが、やはり今日はお題の「パイナップルタルト」に集中を。

パイナップルを使った古いタルトのレシピは1728年ケンブリッジの植物学博士Richard Bradley による「The country housewife and lady’s director」に見ることが出来ます。バルバドスのレシピだというパイナップルタルトは、輪切りにしたパイナップルをマデイラ酒とお砂糖で煮込み、マーマレード状になったものを、ペストリーの中に詰め、オーブンで焼いたもの。最後にその中に生クリームを流していただくというそれは、間違いなく美味しそう。考えてみるとこのタルト、ペストリーにパイナップルジャムと生クリームと、ほぼ今のパイナップルタルトと材料は一緒です。このレシピを試した約300年前の人たちはきっと、美味しくて卒倒しそうになったに違いありません。

ところで、もう一つ話のついでにご紹介しておきたいスコットランドのタルトがあります。オランジュリーやパイナリーなどの温室は富裕層のみが許される贅沢でしたが、園芸に興味を持っていたのは中流階級の人たちも一緒。ヴィクトリア時代になるとWardian case(ウォーディアンケース)と呼ばれるガラスの箱が流行します。現代のテラリウムのようなものですが、この中でシダ植物などを栽培し、一般の人たちも家の中で小さな園芸を楽しんだのです。これにより、一躍人気が出たシダ植物、パイナップル同様これまた、壁紙やテキスタイルなど様々なもののデザインに使用されるようになります。そしていつの間にかタルトにも、、、。

なるほどシダと言われればそう見えるような、、、ファーンタルト☆

なるほどシダと言われればそう見えるような、、、ファーンタルト☆

 

それは、よくパイナップルタルトのお隣に並んで売られているお菓子。「Scottish fern tarts(スコティッシュファーンタルト)」または「Scottish fern cake(スコティッシュファーンケーキ)」という名で呼ばれています。パイナップルタルト同様小型のタルトで、白いフォンダンの上にチョコレートフォンダンでジグザグ模様のようなものが描かれています。これが名前の由来 にもなっているFern(シダ)の柄。なるほど言われてみればシダの葉に見えなくもありません。ベースはペストリーにラズベリージャムとフランジパーヌ(アーモンドクリーム)。それってベイクウエルタルトじゃないの?なんて言うなかれ、上にこのシダ模様があれば、それは「ファーンタルト」ということで。

ちょっとノスタルジックなこの二つのタルト、スコットランドにお出掛けの際は是非探してみてください。
出会えたらラッキー、出会えなかったら、また次回旅をする口実に、、。

 

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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