第163話 Michaelmas dumpling ~ミクルマスダンプリング~

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<Michaelmas dumpling ミクルマスダンプリング>

10月10日は「Devil’s Blackberry Day」。直訳すると「悪魔のブラックベリーデー」?はて、なんのことやら。イギリスの古い言い伝えによると、この日以降ブラックベリーを摘んではいけないことになっています。何故なら悪魔がこの日、ブラックベリーに唾を吐いて、食べられなくしてしまうから。。。

この日の別名は「Old Michaelmas Day」。現在は9月29日に祝われる「St. Michael’s Day(聖ミカエルの日)」ですが、1752年、ユリウス暦からグレゴリオ暦に切り替わる以前は10月10日だったため、そう呼ばれています。昔々の10月10日、大天使ミカエルがLucifer(悪魔)を天国から追放し、その悪魔が落ちてきたのが、地上のブラックベリーの茂みの上。腹立ち紛れか、嫌がらせかブラックベリーに唾を吐きかけ、たちまちブラックベリーは酸っぱくなり、カビが生え、虫がついてしまったそう。だから、今もブラックベリーを摘むなら10月10日前。もちろん、その頃には盛りも過ぎ、相当美味しくなくなっているはずですから、早めに摘んでおきなさい、という事かもしれませんが。それにしても、そのためのお話しがとってもイギリスらしくて面白いですよね。ちなみにこの日、「Devil’s Spits Day(悪魔が唾を吐く日)」なんて呼び名もあります。

さて、ここで「St. Michael’s Day(聖ミカエルの日)」について。この日は1年の収穫を喜び、大天使ミカエル、その他全ての天使たちに感謝を捧げるお祭り。昔からイギリスでは1年を次の4期(Quarter days)で区切って考えてきました~Lady Day(3月25日)、Midsummer(6月24日)、Michaelmas(9月29日)、そしてChristmas(12月25日)。中でも秋のミクルマスデイは作物の収穫が終わり、次のサイクルへの始まりの時と考えられ、雇用契約や賃金の支払い、農地の貸借の契約や支払いなどが多くおこなわれました。そのため、この秋に行われるフェア(市・お祭)は土地によってはGoose Fair(グースフェア)・Michaelmas Fair(ミクルマスフェア)とも呼ばれ、今で言うところの就活フェア「Hiring Fair」や、ちょうど食べ頃に育ったガチョウを売るガチョウ市「Goose Fair」でもありました(地代をがちょうで支払ったり、ガチョウを売った儲けで支払をしたりしたので)。ガチョウこそ売っていませんが、今でもノッティンガムでは、とても大きなグースフェアが毎年10月の初旬に行われています。

山のように採れるブラックベリーでジェリーを作っておけば1年間は楽しめます☆

古くから伝わるお祭りごとと言えば欠かせないのがご馳走。このミクルマスデイのお祝いに欠かせないのはやはり季節柄、ガチョウとブラックベリー。人々は自分で育ててきた、あるいは市で買ったガチョウをローストし、野で摘んでおいたブラックベリーでパイやプディング、ジェリーなどを作りました。今でこそ、クリスマスのご馳走用にと、丸々と太らせたガチョウが人気ですが、秋のガチョウはまた別の味わい。Green goose と呼ばれるまだ身の締まった若いガチョウや、麦の収穫を終えた畑で落ち穂を食べさせ、ふっくらしてきたStubble-gooseが人気だったとか。

ミクルマスデイのために作られていたブラックベリーデザートは様々だったようですが、面白いものでは、「Michaelmas dumpling (ミクルマスダンプリング)」というものがあります。これはベーキングパウダー入りの小麦粉で作るダンプリング(お団子)の中にりんごを包み込み、それをブラックベリーの上にのせて蒸し煮にしたもの。蓋をしたお鍋の中で、ブラックベリーは加熱されソース状になり、ダンプリングはふっくらと膨らみ、中のりんごも柔らかに。外側にはブラックベリーの、内側からはりんごの果汁が染み込んだホカホカのダンプリングが楽しめる、寒くなり始めるこの季節にぴったりのデザートです。

ふっくら膨らんだダンプリグは身も心も温まるデザート☆

スコットランド北部ではMichaelmas bannock(またはStruan Micheil)と呼ばれる、特別なバノックが焼かれていました。バーリーと、オーツとライ麦を混ぜ合わせ、羊のミルクを加えてまとめたスコーンのような生地を、さらに、卵とクリーム、バターなどで作るゆるいパンケーキ生地のようなバッターを3度塗りながら焼くというスペシャルなもの。お祭用のバノックですから、これについてはいろいろ興味深い言い伝えがありますが、長くなりそうなので、それはまた次の機会に。
とにもかくにも、ミルクマスデイは、冬の入り口。日に日に長くなる夜、厳しくなる寒さ、否が応にもやって来る長く辛い冬の闇から守ってくれる守護聖人聖ミカエルに感謝と願いを込めた宴ですから、当時の人々にとっては大切な1日だったのです。

これに関するにこんなものがあります。
~ミクルマスデイにガチョウを食べると、1年お金には困らない~
“Eat a goose on Michaelmas Day,
Want not for money all the year”.
そしてそのローストグースの胸の骨が茶色なら、過ごしやすい冬。
青みがかっていたら、その人にとって厳しい冬になるのだとか、、、

 

 

 

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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