第166話 Mrs.Beeton’s Christmas Cake ミセスビートンのクリスマスケーキ

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<Mrs. Beeton’s Christmas cake ミセスビートンのクリスマスケーキ>

今月はちょっと気分を変えて、ヴィクトリア時代の大ベストセラー家政書、Mrs. Isabella Mary Beeton 通称ビートン夫人による 「The Book of Household Management(1861)」から、クリスマスのお菓子をいくつかご紹介したいと思います。

まず今回はクリスマスケーキ。イギリスのクリスマスケーキといえば、以前にもご紹介しましたが、ブランデーに漬けたドライフルーツがぎっしり詰まったいわゆるフルーツケーキと呼ばれるもの。昔は高価であったろうサルタナやカランツ、オレンジピール、ミックススパイスやお酒もたっぷり使い、1か月以上前に焼いて熟成させたものです。クリスマスに限らず、結婚式やイースター、洗礼式などなど、節目節目のお祝い事には欠かせない、イギリス菓子を代表するケーキのひとつ。もちろんビートン夫人の家政書にもそんなリッチなフルーツケーキのレシピものっていますが、「クリスマスケーキ」という名で紹介されているのはいつものそれとはちょっと違います。

 

 

CHRISTMAS CAKE.
1754. INGREDIENTS – 5 teacupfuls of flour, 1 teacupful of melted butter, 1 teacupful of cream, 1 teacupful of treacle, 1 teacupful of moist sugar, 2 eggs, 1/2 oz. of powdered ginger, 1/2 lb. of raisins, 1 teaspoonful of carbonate of soda, 1 tablespoonful of vinegar.
Mode.—Make the butter sufficiently warm to melt it, but do not allow it to oil; put the flour into a basin; add to it the sugar, ginger, and raisins, which should be stoned and cut into small pieces. When these dry ingredients are thoroughly mixed, stir in the butter, cream, treacle, and well-whisked eggs, and beat the mixture for a few minutes. Dissolve the soda in the vinegar, add it to the dough, and be particular that these latter ingredients are well incorporated with the others; put the cake into a buttered mould or tin, place it in a moderate oven immediately, and bake it from 1–3/4 to 2–1/4 hours.

材料を見てみると~
小麦粉5ティーカップ、溶かしバター1ティーカップ、クリームが1ティーカップ、トリークル1ティーカップ。お砂糖1ティーカップ、卵2個。1/2オンスのジンジャーに1/2パウンドのレーズン。そして重曹小さじ1とお酢大さじ1。
これらをよく混ぜ合わせて型に入れ、2時間前後オーブンで焼きなさいという、実にシンプルなもの。(オンス=約28g/パウンド=約453g)

 

今の時代のフルーツケーキに比べるとレーズンは少量ですし、お酒も全く入りません。クリームも入るし、お酢で溶いて入れる重曹も入るので、きっと軽い仕上がりのはず。トリークルやジンジャーが入って、どちらかというとジンジャーブレッドに近い?
そんなことを頭で考えて想像しているより、「The proof of the puddings is in the eating(論より証拠)」。作って食べてみるのが一番確か。さぁ腕まくり~☆
さて、まずは計量スタート。オンスやパウンドは良いとして、気になるのが「teacupful of~」という単位。粉やお砂糖、バターまで、ここではティーカップで計量されています。カップじゃなくてティーカップ?イギリスらしいと言えばイギリスらしいですが、、、一体どのくらいの容量のカップのことなのでしょう。時代によって多少変わるようですが、この頃は1teacupful =約1/4 pint。1pintは約564ml、今回は1ティーカップを大体140mlとして作ることに。

さぁ焼きあがりましたよ ↓

 

 

クリスマスケーキにしてはちょっと地味すぎ?でもよく考えてみれば、シュトーレンやパネトーネなど他所の国のクリスマスケーキには簡素な見た目のものも多数。ついつい最近の風潮で、フェスエティブケーキというと華やかなものをイメージしがちですが、当時にすればお砂糖もクリームもたっぷり入ったこのケーキは充分にリッチで、魅力的なケーキはずです。
そして肝心のお味ですが~これは熟成なしで、すぐに食べても美味しい、軽いジンジャーブレッドのよう。トリークルの風味が効いていて、今食べても十分に美味しいと感じる配合です。この贅沢過ぎない佇まいも、家族で過ごす静かな聖夜に、むしろふさわしいケーキなのかもしれませんね。

では次回もビートン夫人の家政書からクリスマスのお菓子をご紹介するのでお楽しみに☆

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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