第194話 Hobnob/ Gypsy creams ホブノブ/ ジプシークリーム

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イギリスおかし百科


<Hobnob / Gypsy creams ホブノブ/ジプシークリーム>

紅茶にビスケットはイギリスのティータイムの大定番。手作りケーキはなくとも、どこの家庭でも市販のビスケットのひと箱やふた箱が常備してあるのが当たり前。イギリス人が1年に消費するビスケットは平均500枚程度と言われています。ということは一日平均1.3枚。そんなに多くないじゃないと思われるかもしれませんが、この数は世界一位、アメリカと比べても35%以上多いそう。さらにコロナ禍によるロックダウンの影響で、家庭でのビスケット消費量がさらにぐんと伸びたそうですから、去年あたりはもう少し増えていたかもしれせん。

日本では各メーカーしのぎを削って工夫を凝らした新商品を頻繁に繰り出し、消費者の興味を惹きつけていますが、変わらない味を求める人が多いイギリスでは、何年も何十年も、定番のビスケットが売れ続けています。

 

例えば日本でも知られているマクヴィティ社のダイジェスティブビスケットが生まれたのは1892年、もう130年も前のこと。そしてイギリスで一番人気のビスケットに選ばれることの多いチョコレートダイジェスティブが生まれてからもすでに100年近くが経とうとしています。

マクヴィティ社では他にも、リッチティービスケットや、ジャファケーキなど国民的人気を誇る商品が沢山ありますが、堅固なファンを持つのがオーツビスケットのHobnobs(ホブノブ)。これも今はチョコ掛けやチョコチップ入りなどバリエ―ションは各種出ていますが、オリジナルが登場したのは1985年。ロールドオーツのザクザクとした食感が癖になるシンプルかつ飽きのこない味わいが魅力。紅茶にダンクして(浸して)食べるビスケットランキングではいつも上位に食い込む人気の商品です。

 

ザクザクオーツの食感が楽しいホブノブ

近年オートミールブームが来た日本でも、ようやくちらほらとオーツを使ったビスケット(クッキー)を見かけるようになりましたが、昔からイギリスではオーツ入りのビスケットは、市販品、手作り品を問わずとても一般的なもの。ホブノブはオーツと全粒粉入りということでちょっぴりヘルシー感もプラスされ、フラップジャック同様甘いものを食べている罪悪感が軽減されるのも人気の要因の一つかもしれません。

「ホブノブ」は今ではオーツ入りビスケットの代名詞的存在となっていますが、他のイギリスビスケット、例えば「ダイジェスティブビスケット」や「ブルボンビスケット」「カスタードクリームビスケット」などのように、メーカーが違っても同じ商品名で売られているものとは違いマクヴィティだけが使う商品名。他社の同じようなオーツビスケットは「Oat biscuits(オーツビスケット)」「Oaties(オーティーズ)」「Oaty rounds biscuits(オーティーラウンドビスケット)」などそれぞれ名付けられています。
では、なぜマクヴィティはオーツビスケットをホブノブという名にしたのか。

普通に考えると「hobnob=(著名な人と)打ち解けて過ごす」という単語から来ていると思いますが、もう一つ説があります。それはホームメイドをイメージさせるhob(キッチンのコンロ)という単語と、食感を表すknobbly(ごつごつした)の二つの語を合わせたというもの。ホブノブのパッケージには小さくnobbly biscuitsと書かれていますが、果たして正解はどちらなのか、答えははっきりしません。

 

手作り派も多いアビーと呼ばれるオーツビスケット

ところで、この昔からの定番であるオーツビスケットの発売が1985年とそう古くないのが気になりますよね。実はマクヴィティではホブノブの前身とされる「Abbey crunch(アビークランチ)」と呼ばれるオーツビスケットが存在していました。
「アビークランチ」は(昔食べていた人による思い出話しによると~)オーツのザクザク感はホブノブより控えめで、ホブノブよりもう少しだけ小ぶり、ゴールデンシロップまたはデメララシュガーの風味がする、とにかく紅茶のお供に最高のビスケットだったそう。
イギリスの有名フードライター、ナイジェル・スレイター氏がこよなく愛するビスケットとしても知られています。

どこの地方のどの家庭でも作られていそうな素朴なオーツビスケットではありますが、一説によるとアビークランチのルーツは、湖水地方に12世紀から16世紀にかけて存在したFurness Abbeyの修道僧によって作られていたビスケットだった、なんていう話しも。
いずれにせよ、アビークランチはより人気を得たホブノブに主力オーツビスケットの座を譲り、消えていったわけですが、あのナイジェル・スレイターさんが「どのビスケットより美味しかった、ホブノブはその代わりにはならない」と熱く語っているのを読むにつけ、一度食べてみたかったと思わずにはいられません。

チョコレート味、プレーンどちらも美味しいジプシークリーム

そしてもうひとつ、懐かしのビスケット(今はもう売られていない)としてよく語られるのが、マクヴィティの「Gipsy creams(ジプシークリーム)」。こちらはココア色のオーツビスケットで、チョコレートクリームをサンドしたもの。1960年代後半から2005年にかけて、30~40年も売られていたという人気のビスケット。マクヴィティのものはパッケージのスペルがGypsyではなく「Gipsy」と表記されていました。古いレシピ本になればなるほど、GypsyよりGipsy のスペルのほうが多いよう。
本来のジプシークリームは、ビスケットもサンドするクリームもチョコレート味ではなくプレーンだったのが、途中からチョコレート味に代えたところ、急に人気が出たのだとか。確かに、イギリスのレシピ本でジプシークリームを探してみると、プレーンのビスケットに、白いクリームがサンドされているものや、プレーンのビスケットにチョコレートクリームがサンドされているものがあったりと色々。どちらも美味しいですが、確かにチョコレート味とオーツの組み合わせはなかなか新鮮。チョコレートラバーの多いイギリスのこと、いつか復刻版が出るのではないかと期待しています。

でも~
今すぐ食べてみたい!という方のために、簡単バージョンの手作りジプシークリームの作り方をご紹介しておきますね。
お試しあれ☆

 

プレーンのビスケットにチョコレートクリームをサンドしたバージョンのジプシークリーム

<ジプシークリーム> 10個分

① フードプロセッサーに オーツ55g薄力粉110g塩一つまみベーキングパウダーと重曹各小さじ1/4無塩バター55gショートニング55gグラニュー糖(or きび糖)55gを入れて全体がサラサラの状態になるまで回します。

ゴールデンシロップ大さじ1を加えて、しっとりするまでさらに攪拌します。
ボールに取り出し、一つにまとめたら、20個のボールに丸め、オーブンペーパーを敷いた天板に間隔を空けて並べ、軽く手で押さえてつぶします。

③ 170℃に予熱したオーブンで13分ほど焼き、天板のまま冷まします。

④ クリームを作ります。
無塩バター40gを柔らかく練り、粉砂糖80g牛乳大さじ1/2を加えて混ぜたら、ハンドミキサーでふわっと軽くなるまで混ぜます。
(チョコレート味にするときは大さじ1のココアを粉砂糖と共に加えます。)

⑤  冷めたビスケットにクリームをサンドして完成☆
(クリームは絞り出し袋を使うときれいにサンドできますよ)

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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