第190話 Cornflake tart/ Fudge tart コーンフレークタルト/ファッジタルト

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<Cornflake tart/Fudge tart コーンフレークタルト/ファッジタルト>

 

前回に引き続き1970年代、80年代、イギリスのスクールディナー(学校給食)によく登場したお菓子、今日はその中のタルト系のご紹介です。

と言ってももうすでに、トリークルタルトベイクウェルタルトマンチェスタータルトジプシータルトなどはご紹介してしまっているので、それ以外の今は滅多に見かけなくなってしまった「コーンフレークタルト」と「ファッジタルト」についてです。
まずはコーンフレークタルト。

見た目はこんな感じ。

 

ある意味ご想像どおりではないでしょうか?まさに名前そのまま。タルトの中にとにかくコーンフレークがぎっしり詰まっています。

甘みのないイギリスのシンプルなショートクラストペストリーとコーンフレークのこのシンプル過ぎる炭水化物の複合体。子供だましのボリューム重視、かさかさしただけの味もそっけもないお菓子を想像された方は私と一緒、きっと食べて驚かれるはず。想像よりは実は数倍美味しいのです。

作り方はこう~

ラズベリージャムがいいアクセント☆

まずはショートクラストペストリーを空焼きします(直径21㎝)。そこにラズベリージャムまたはストロベリージャム(大さじ5)を塗り広げます。次にたっぷりのゴールデンシロップ(125g)とバター(50g)、そしてお砂糖少々(25g)を煮溶かし、それをコーンフレーク(100g)にまとわせます。先ほどのペストリーにこれを詰め、180℃のオーブンで5~7分ほど焼きます。これで完成。

ゴールデンシロップとパン粉で作るトリークルタルトが思いの外美味しいように、このコーンフレークタルトもゴールデンシロップの優しい甘さと香り、そしてジャムの酸味が効いて意外とあり。
給食では大抵温かいカスタードがなみなみと注がれていたようですが、これは絶対にベストコンビネーション。カスタードがあるだけで、サクサクの食感が際立ち、このタルトがちょっぴりチープなスナックからプディング(デザート)へと大変身。また作ろう~そう思えるお菓子になります。

カスタードたっぷりがお約束

 

ところでこのコーンフレークタルトもファッジタルトも、70年代にはイギリス給食の定番になっていましたが誰が考え出したのかは不明。戦後のまだ食糧が量も種類も豊かではない時代の産物であることは容易に想像がつきますが、これにせよ、トリークルタルトやジプシータルトなど、シンプルな材料で様々なお菓子を作りだすイギリス人の工夫と才にはいつも脱帽です。

次に「ファッジタルト」。「バタースコッチタルト」などとも呼ばれますが、こちらもフィリングの材料は最高にシンプル。基本は牛乳にマーガリン(バター)そして小麦粉の三つ。香りづけにバニラ、オプションで上にチョコレートを削ることもありますがそれだけ。卵もクリームも必要ありません。

 

作り方もシンプルなのは言わずもがな。
お鍋で牛乳とバターを溶かしたら、そこにお砂糖と、牛乳で溶いた小麦粉を加えます。しっかりとしたとろみがつくまで加熱したら、後は香りづけのバニラを加えて空焼きしたペストリーの上に流すだけ。お砂糖をブラウンシュガーにすればもっとキャラメル色のバタースコッチ風、白いお砂糖を使えば淡いトフィー風のフィリングに。常温でしっかり冷ますと、カットしても流れない固さにセットします。高級な生クリームを使わず、牛乳とマーガリンに小麦粉で濃度をつけることでトフィー風のフィリングを作ってしまうこの力業、これまた脱帽ものの一品です。

これでふと思い出したのが、1950年代頃売られていた「クリームメーカー」。これもイギリス的な工夫と力業の結晶。なんと牛乳とバターで生クリームを作ってしまおうというグッズ。まずは牛乳とバターをお鍋でバターが溶ける程度に温めます。それを上部のプラスチック部分に注ぎポンプを上下させると下にクリームになって出てくるという仕組み。Thick cream(濃いクリーム)状なら、牛乳4oz(約28g)に対してバター3oz。ホイップしたい時はバターは4oz、そしてクリームにしてから12時間以上冷やしてから使いましょうとのこと。

レトロ感漂うクリームメーカー

イギリスのスーパーに行くと、まるで牛乳のような値段で売られている生クリームにいつも羨ましさを感じてしまいますが、昔はイギリスでもクリームは高級品。こうやっておうちで手作りすれば安いですよ、そんな商品です。
ファッジタルトも、本当は生クリームを使いたいけれど予算的に難しい、でも子供たちに甘~いファッジたっぷりのタルトを食べさせてあげたいという工夫の産物だったのでしょう。当時スクールディナー作りに携わっていた多くは一般の主婦たち、家庭のおやつ作りの創意工夫が多いに給食に生かされていたことは間違いありません。
美味しくなかったという話しをよく聞く昔のスクールディナーですが、ことデザートに関しては、当たり外れはありつつも、甘く懐かしい思い出を持つ人も多いようです。

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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