<Bakewell tart and Bakewell pudding ベイクウエルタルト&ベイクウェルプディング>
「Bakewell tart」 しっかり焼かれたタルトのこと? 初めて聞いたらそう思いかねないこの名前。実はイギリス中部Derbyshireの同名の村の名からつけられた名前です。Bakewellは自然豊かなピークディストリクト国立公園の中にある小さなマーケットタウンですが、このお菓子の誕生の地と言うことで国中から観光客が訪れます。
さてどんなお菓子かといいますと~ショートクラストペストリーで作ったタルト生地の上にラズベリージャムを敷きつめ、その上にバターと砂糖、卵とアーモンドパウダーで作ったいわゆるフランジパーヌ生地を詰めて焼いたものです。ティールームはもちろん、スーパーでも必ず売っているイギリスでは大定番のタルト。基本は大きなタルト型で焼きますが、小さく一人用に作ってアイシングとドレンチェリーでおめかしした「チェリーベイクウエル」もお茶のテーブルを可愛らしく彩ってくれる人気のバリエーションです。
ところで、ベイクウェルの村でこのお菓子が生まれた当初はタルトではなく「ベイクウェルプディング」と呼ばれるものでした。生地はショートクラストベストリーではなく、層の多いパフペストリー。そこにストロベリージャムを塗り、フィリングを流すのですが、それがフランジパーヌよりずっとゆるい、卵と溶かしバター、お砂糖とアーモンドパウダーを混ぜ合わせたもの。このため、焼き上がりはふんわりではなくもっとむにゅっとした食感。正直お味に関しては現代版ベイクウェルタルトのほうに軍配が上がりますが、これもまた伝統の味。ベイクウェルの町を訪れると、「The Old Original Bakewel l Pudding shop」や「Bloomers Original Bakewell Puddings」といった「われこそベイクウェルプディングのオリジナル(元祖)の味」を名乗るお店がいくつか目に付きます。
他の人気の伝統菓子同様、その誕生話しには諸説あるのですが、これまでずっと語られてきた説は~1820年(あるいは1860年)にWhite horse Inn(現在のRutland Arms Hotel)の女主人Mrs Greavesが見習いの料理人にジャムタルトを作るよう言いつけたところ、その料理人が手順を誤まって作ってしまったのがこのベイクウェルプディングで、それが実に美味だったため店の看板メニューにした~というもの。ところがここ数年、この説に「異議あり!」 を唱えているのが そのプディング誕生に一役かっているMrs Greavesの子孫であるPaul Hudson 氏。彼が2012年に出版した「Mrs Ann Greaves of the Rulland Arms and the Bakewell Pudding」 によると~
Mrs Ann Greaves が最初の夫James Hudson と共にRutland Arms(前 White horse Inn) の主人とその妻としてBakewell に越してきたのが1803年のこと。1805年にJames が29歳の若さでこの世を去ると、その友人William Graves と再婚します。1833年にはWilliam にもまた先立たれることとなるのですが、それから1857年、80歳になるまで宿を切り盛りし続けます。さて、肝心のプディングですが~時は1851年、Ann Wheeldonという当時18歳の少女がRutland Arms に給仕人としてやってきます。彼女こそが例の失敗からベイクウェルプディングを生みだしたとその人と言うわけです。つまりベイクウェルプディングが生まれたのは1851年から女主人Mrs Greaves が引退する1857年までの間ということになります。というとはこれまでまことしやかに語られてきた1820年または1860年説は誤まりだ~というのがこの本の著者Paul Hudson 氏の言い分。彼はMrs Greves のthe great-great-great-grandson 曾曾曾孫(でいいのかしら?)ということで、親族、知り合い、戸籍帳簿全てを調べた上でのこの説には絶対の自信があるそうです。
「1851年以前に出版された料理本にすでに ベイクウェルプディングが載っているけれど~それは?」なんていう疑問を持っている人もいるようですが、これ以上くどくど続けているとせっかくの美味しいプディングもパサパサになってしまいそうですから、今日のところはこの辺で、、、、