第205話 Felixstowe tart/ Forfar fruit loaf  ~フィーリックストウタルト/ フォーファーフルーツローフ~

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<Felixstowe tart/ Forfar fruit loaf  フィーリックストウタルト/ フォーファーフルーツローフ>

 

今日のお菓子は前話にひきつづき、古いボーウィックのレシピ本より(ボーウィックについては前回の記事を)。今回気になったのは名前に地名がついたお菓子です。

古いお菓子の本を眺めていると、〇〇ケーキ、〇〇タルト、〇〇ローフなどそのお菓子が生まれた土地の名がついているものがとても多いのですが、ベイクウエルタルトや、グラスミアジンジャーブレッドなど、誰もが耳にしたことがある程有名になったものを除いては、その多くが姿を消してしまっています。もの好きなわたしはどこかで生き延びているんじゃなかろうかと、よくその村や町に探しに行くのですが、大抵は手掛かりもなしに帰ってくることに。。。でも、本に名前やレシピが残っているお菓子はまだ運がいいほうなのかもしれません。さもなければ、跡形もなく消えてしまうだけですから。

まず一つ目は「Felixstowe tart (フィーリックストウタルト)」。
フィーリックストウはイングランド南東部、サフォーク州東海岸にある港町。19世紀初頭から20世紀初めにかけては海沿いの観光地として栄え、世界大戦中は軍事拠点として重要な役割を果たし、現在はイギリス最大と言われるそのコンテナ港が海運の要衝として知られています。

さて、このフィーリックストウタルトがなぜ気になったかというと、まずはそのタルト生地。粉のうち、半分が小麦粉と半分がコーンスターチ、そこにベイキングパウダーとお砂糖が少々。そこにバターを加え、卵黄と牛乳でまとめるというもの。脆く砕けるような食感になるのが容易に想像できます。この生地だけで美味しそうなのに、この上にジャムをのせて、メレンゲをのせてもう一度焼くというのだから、美味しくないはずがない。
ところで、昔のレシピによくあるように、ここでもジャムはジャム、お好きなものをお使いください、ということで、特に種類の指定はありません。わたしが選ぶならきっと、甘いメレンゲに合うように何か酸味の強いもの。アプリコットジャムかラズベリーかブラックカラント。型のサイズは?それも記載はなし。「バターを塗った古いお皿に敷き込んで」とのこと。その辺りの自由度がまた楽しい。

このレシピ、手元にある3冊のボーウィックスのレシピ本、1890~1950年の間に出版されたいずれの版にものっています。ただし、よく見ると少しずつ変化があり、一番古いエディションのものは卵が二個、その他の2冊は1個のみに。上にのせるメレンゲに関しては「卵白だけでたてて、砂糖は上にふりかける」から「砂糖を加えて卵白をたてる」に変更されています。

試しに両方のレシピで作ってみました。
卵は二つの方が明らかにいいバランス。これは味というより、時代背景によるもので一つに減らされたのかもしれません。卵やバターが貴重品となる戦中戦後はレシピから卵の割合が減り(あるいはパウダー状の乾燥卵が使われていることも)、バターの代わりにマーガリンやラードなどが使われていることが多いので。卵白はお砂糖を加えて立てたものの方がメレンゲが安定していていい感じ。3冊を見比べると、このお菓子に限らず、版を重ねるごとに、明らかに間違いだった箇所が修正されていたり、作り方も改善されていっていることに気づきます。

↑ ホロっと脆いタルトに甘酸っぱいジャムとサクふわのメレンゲ、いつもの材料なのに、なんだかとっても新しいお菓子に出会った気分です。

お次は「Forfar fruit loaf (フォーファーフルーツローフ)」。
フォーファーはスコットランドのアンガス州にあるマーケットタウンの名。ダンディーケーキでも有名な港町ダンディーから車で北に20~30分ほど行った辺りに位置します。その歴史は古く、町が一時ローマ帝国の占領下にあったという記録が残っているほど。19世紀から20世紀初頭にかけてはジュートやリネンなどの繊維産業で栄えた町です。

↑ フォーファーの街並み

以前この町を訪れたのはフォーファーブライディ―というセイボリーのパイを求めて。その時も一応探してはみたのですが、ベイカリーやスーパーなどにはフォーファーフルーツローフと名のつくものは見つけることができませんでした。

さて、この「フォーファーローフ」、
出来上がりはこちら。

 

御覧の通り、いたってシンプルな何の変哲もない、ふつうのフルーツローフ。ドライフルーツの量は粉と同量、砂糖とマーガリンは粉の半量という、かなりあっさりとしたどこにでもある配合です。これがどうしてフォーファーのフルーツローフと名がつけられているのか。
実際のところ、これはよくあること。〇〇フルーツケーキ、〇〇タルト、〇〇ビスケットなどそれぞれその土地の名前を冠していても、どこの町のレシピも全く一緒なんてざら。考えてみれば、日本の観光地の〇〇饅頭や〇〇煎餅が、どれもそう変わりがないのと同じようなものなのでしょう(もちろん違うものもありますが!)。

下に作りやすい分量にした(元のレシピは大きすぎるので)フォーファーフルーツローフのレシピを簡単に書いておきますので、イギリスの昔ながらのフルーツローフにご興味ある方はお試しあれ。
今の味覚ではあっさり過ぎ、できれば卵をもう一つ入れたい!と思ってしまうところですが、スライスしてバターを塗って食べるとこれはこれで悪くないのかも、昔の味ですから。
ただし、たっぷりの紅茶は必須です☆

<フォーファーフルーツローフ>

①無塩バター112gとお砂糖112gをクリーム状になるまでよく混ぜ合わせます。
②卵1個を加えたら、小麦粉225gとベイキングパウダー小さじ1½をあわせてふるったものも加えて混ぜ合わせます。
③サルタナとカランツそれぞれ112gずつ、刻んだアーモンド30g、牛乳大さじ1~2を加えてさらに混ぜ合わせます。
④オーブンペーパーを敷いた型※に入れ、170℃に予熱したオーブンで1時間ほど焼きます。
(最後に竹串をさしてみてチェックを)

※ 2パウンドローフ型(約21×11㎝のパウンド型)がサイズ的にぴったりですが、お手持ちのパウンド型に分けて入れても。その際は焼き時間は適宜調整してくださいね。

 

 

 

 

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宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 、2022年6月「新版BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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