<School dinner cake スクールディナーケーキ >
日本人の誰もが持っている学校給食の思い出。給食が好きだった人も嫌いだった人も、自分にも無邪気な子供時代があったことを思い出し、懐かしさに思わず遠い目になるのは日本人もイギリス人も同じです。
メインディッシュとプディング(デザートの意味でケーキタイプのものも含みます)から成るイギリスのスクールディナー(学校給食)。やはり子供たちの楽しみはいつの時代も甘いプディング。もちろん時代によってその内容は変わりますが、ノスタルジーを込めた意味でよく語られるスクールプディングは、日本で言えば昭和の時代、特に1960~1980年代のもの。代表的なものはライスプディングにセモリナプディング、タピオカプディングといったミルクに穀物でとろみをつけた白くてどろりとした温かいプディングに赤いジャムを落としたもの、それにスポテッドディックやジャムローリーポーリーといったバターではなくスエットを使い蒸し上げる、重くどっしりとしたプディングに温かいカスタードをどろりとかけたもの。トリークルタルトやアップルクランブルも出ましたが、それらにもやはり温かいカスタードがかかっていました。
お気づきのように日本と違うのは温かいプディングが多いこと。日本の給食デザートと言えば、プリンやヨーグルト、フルーツなどの冷たいものなので、ちょっと不思議な感じがしますね。でも考えてみれば学校給食スタート当初の目的は、満足に栄養を摂ることのできない子供たちに、温かく、お腹に溜まるエネルギーのある食事を提供すること。肌寒くどんよりとした日の多いイギリスではデザートも温かくあるのが普通だったのです。
このスクールプディング、良い思い出を持っている人もいれば、苦い思い出を持っている人もいます。不評だったのは、ダマだらけのセモリナプディングやカスタードソース、Frog spawn(カエルの卵)というあだ名のサゴプディングにタピオカプディング(共に見た目はどろりとした温かいミルク中に透明の粒々が混ざっているプディング)など。どれもきちんと作ればそれなりには食べられる味なのでしょうが、そこは給食。一度に大量に作ろうとするとどうしても、ダマやひどいテクスチャーのものになることもあったのでしょう。
反対に人気があったのはオーブンで焼くケーキタイプのもの。前回チョコレートコンクリートをご紹介しましたが、あれもその一つ。今日は他にも人気のあったケーキタイプのオールドスクールプディングをいくつかご紹介します。
まずは「チョコレートスポンジ」。シンプルなココア味のトレイベイクケーキなのですが、ここにチョコレートカスタードまたはミントカスタードがとろりとかかります。
チョコレートカスタードのほうは例のごとく、インスタントの卵なしカスタードパウダーにココアを混ぜたものなのですが、これは意外とあり。想像通りの食べやすいお味。問題は緑色をしたミントカスタード。確かにチョコレートにミントは合うけれど、温かいミント味のカスタードは想像し難いものがあります。。。でも大丈夫、単品ではかなり微妙ですが、チョコレートケーキと合わせると食べられなくはありません。こちらも基本は卵を使わないなんちゃってカスタード。コーンスターチと牛乳、お砂糖、そして緑のフードカラーとミントエッセンスで出来ています。つまり、スーッとするミントフレーバーの温かいとろみのあるミルクソース。最高~と言うお味ではありませんが、年に一度くらいなら食べてもいいかな、そんな味。。
きっとその日によって、ミント具合や緑色の濃淡、とろみの強さや、悪評高いダマダマ具合(カスタードパウダーが上手に溶かれていないでダマがいっぱいあったそう)、ムラがあったことでしょう。それでもこのチョコレートスポンジはたまにしか出ないスペシャルプディング、一番大きな一切れをもらおうとみんな鵜の目鷹の目だったとか。いつの時代もチョコレートは子ども達の人気者ですね。
チョコレートスポンジの他にプレーンスポンジバージョンもあります。
代表的なのは「ジャム&ココナッツスポンジ」「スクールディナージャム&ココナッツケーキ」などと呼ばれるもの。シンプルなトレイベイクのスポンジケーキに、ラズベリーまたはストロベリージャムを塗り、ココナッツが散らしてあります。これにはチョコレートコンクリートと同じく、例のストロベリーブランマンジェパウダーで作るピンクのカスタードがかけられることが多かったよう。でもこちらは正直カスタードなしのほうが美味しいような。。。ジャムの酸味にココナッツのアクセント、普段の紅茶のお供に食べたいイギリスの王道ケーキです。
もう一つ似たタイプで有名な給食用ケーキと言えば「スクールディナーケーキ」「オールドスクールケーキ」「スプリンクルスポンジトレイベイク」などと呼ばれる、プレーンのトレイベイクのスポンジにアイシングをかけたもの。ハンドレッド&サウザンドと呼ばれるカラフルな粒々スプレーがふりかけられており、レトロな風貌は今見ても実にキュート。ピンクのアイシングをかけたトッテナムケーキと並んで女の子たちがいかにも好きそうなデコレーションです。
どのスポンジケーキ系も当時はバターの代わりにマーガリンや安価なファットスプレッドを使い、卵も控えめで見た目ほどふんわりはしていなかったかもしれませんが、ピンクや緑のカスタード、アイシングに赤いジャムのデコレーションなど、子供たちの心をつかむには十分だったはず。地味で質素なスクールプディングの中で、きっとキラキラ、美味しい思い出として残っているのでしょう。
今はこれらを食べて育った世代が親となり、家で子供たちにおやつとして焼いてあげつつ、食べ物の大切さ、今の時代の食の驚くべき多様さと豊富さは決して当たり前ではないということを教えてあげているのかもしれません。